2016年3月10日木曜日

コーヒーの作法

1962年11月から1963年5月まで、読売新聞に連載された「可否道(かひどう)」という小説がある。後に「コーヒーと恋愛」と改題されたこの小説には、茶道に倣い「コーヒー道」を確立しようと目論むオジサンが出てくる。

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コーヒーの歴史は思うほどには長くないが、それでも世界各国でいろいろな作法を生み出してきた。

例えばコーヒーを来客にお出しする時、取っ手はどちらに向けているだろうか。

会社で接客を学んだ人は、取っ手をお客様から見て左側に向けるように教わったはずだ。
しかしこれは普通に考えれば合理的とはいえない。
何故わざわざ右が利き手人が多いのに、逆側の左に置いて、カップを廻させるのか。

それはコーヒーに砂糖やミルクを入れなくても、スプーンでかき混ぜて温度を下げる、という作法が存在していたからなのである。
音を立てて飲まない、ということが何より大事だったのだ。
まず、右手でスプーンを持ち、左手で取っ手を支えてコーヒーをかき混ぜる。そして、カップを廻して飲む、という手順である。

古く、カップに取っ手がついていなかった時代がある。
そんな時代でもコーヒーや紅茶の温度を下げるというのは作法上の大きなテーマだったようで、 深めの別皿に飲み物を移して飲んでいたそうだ。
それが現在でもコーヒーカップに付いている受け皿(ソーサー)である。


この絵のように、コーヒーや紅茶を飲んでいたんだそうだ。

現代、温度を下げるためにコーヒーをかき混ぜる人はいないだろう。
ましてや、受け皿に飲み物をあけて飲む人がいたら奇異の目で見られるに違いない。
しかし取っ手は利き腕の反対側に置かれ、ソーサーも無くならない。
作法とはそういうものなのだろう。

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