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2022年2月28日月曜日

シリーズ:美味しいコーヒーを淹れよう 【5】ペーパードリップでコーヒーを淹れる

 いよいよ最終工程です。コーヒーを淹れてみましょう。

まずは、この「淹れる」という工程において、美味しいコーヒーを淹れるための基本的条件をお伝えします。

それは「粉をたっぷり使う」ということです。

ペーパードリップの原理は、湯が「重力」の力で移動するエネルギーを使って抽出する、というものです。

重力は必ず垂直方向に働きますから、上下方向の距離が長い方が有利です。(ゆえに三角錐のドリップ器具が特性的に優れています)

この距離確保のために粉をたっぷり使いましょう、ということです。

一般的なドリップ系(透過法)器具での一人分の粉の量は10gと言われていますが、円錐形ドリッパーの嚆矢KONO式では12gと設定しています。

気持ち、多めに粉を使うことで味がよくなります。

ここでもう一つ注意点が。

一般的なドリップフィルター(円錐でも船形でも)で、一人分は入れないでください、ということです。

最低二人分、粉にして20g以上、できれば25g程度で淹れて欲しい。これも上下方向の距離確保の観点です。


注湯に関しては、新鮮なコーヒー豆を使っている限りは、それほど神経質に考えなくても、粉自体が膨らんで、ゆっくりと少量づつしか注げないはずです。

粉の膨らみに任せて、最終的に抽出したい量まで、連続的にでも、断続的にでもお湯を注いでいただければ美味しいコーヒーが出来上がるはずです。

ここでの注意点は、むしろ注ぎ終わりの問題です。

終盤、フィルターの中は灰汁で一杯になっていますが、灰汁自体は軽いのでお湯を注いでいるうちは落ちてきません。これをなるべくカップに落とさないために、抽出を終える際、フィルターにお湯が一杯の状態で、サーバーから外して欲しいのです。

少し工夫が必要ですね。僕は、サーバーごと持ち上げて、シンクの上で外して、そのままフィルターだけシンクに置いちゃいます。

フィルターを持ち上げて別のカップで受けて置く方もよく見かけますね。


抽出に関しては、

「粉をたっぷり使う」のと、「灰汁を落とさないように、フィルターがお湯で一杯の状態で外す」

の2点に気をつけていただければ、美味しいコーヒーができると思います。ぜひお試しください!


最後に連続写真で、KONO式抽出術の奥義(と言っても超簡単)を解説しよう。僕は毎日練習して1ヶ月かかりました。焦らずに練習してください。

なるべく粉を平らにします。強めに左右に振ると上手くいきます

最初数滴ポタポタと90度以上のお湯を中心に垂らすと、膨らんできてベッドができます

ベッドを広げていくように円形に中から外へ回しながら注滴していきます

必要な量の珈琲液ができたらサーバーから外して別カップかシンクに

お湯が落ち切った時、綺麗な円錐形になっているのが理想です


2022年2月25日金曜日

シリーズ:美味しいコーヒーを淹れよう 【4】コーヒー豆を挽く

「コーヒー豆を挽く」という作業は、エクスペリエンスとしてのコーヒーのクライマックスだと思う。


粉になった状態で簡単に入手できるコーヒー豆を、わざわざ家で挽くという特別感。

立ち昇る、陶酔の芳香。

そして挽いてからの時間こそが、コーヒー粉が激しい酸化に曝される過酷な時間帯で、この長短が、最も味に影響のあるポイントなのだ。


だからぜひ、ミルを入手してみていただきたいのだが、いやいやミルまでは、という方は、コーヒー豆を買うとき、お店で「中細挽き」にしてもらってください。

挽き目は味の好みで変えるものではなく、器具との適性によって決まる。ペーパードリップの場合は、「中細挽き」が最適です。

おうちのミルを調整する際には、「グラニュー糖」くらいの大きさを基準にして挽き目を決めると良いでしょう。


そしてこの機会にミルを買ってみるか、と思った貴方には、少し高価ですがカリタのナイスカットGをお薦めします。

理由は、とにかくお手入れが楽だ!ということに尽きます。

手回しのものや、カット刃が露出している電動タイプは、コーヒーを淹れた後のお掃除がとにかく大変。

ちょっとこのデザインは・・と思われる方も、これに似たタイプのものから選ばれるのが良いと思います。


ちなみにカフェジリオで使っているのは、富士珈機さんの「みるっこ」ですが、モーターが強力すぎて、粉の扱いが少し厳し目です。

その分、モーターに余力があり、故障知らずではあります。

写真の黄色い方が「みるっこ」
写真の黄色い方が「みるっこ」珈琲サイフォン社さんの別注モデルです。








鎌倉のカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュさんが販売していた別注カラーがカッコいいので、ご紹介しておきますね。これ欲しかったなあ・・

※今は販売していないようです。









2022年2月24日木曜日

シリーズ:美味しいコーヒーを淹れよう 【3】とりあえず抽出はペーパードリップに決めて、器具を選ぶ

生活に、エクスペリエンスとしての「美味しいコーヒー」を導入してみませんか、と云うのが本シリーズの趣旨である。

コーヒーの淹れ方はたくさんあるが、エクスペリエンスそのものの楽しさ、とそれを阻害するものがなるべく少ないことが条件になる。

自分の手仕事の具合が大きく味に影響することや、器具や消耗品の入手のしやすさ、お手入れの簡便さを考えると、やはりペーパードリップが一番いいと思う。

ペーパードリップの器具にも色々ある。

エクスペリエンスとしての「美味しいコーヒー」をと云う趣旨に沿って云うなら、デザインの良いものを選ぶのが最良の道だ。

僕は自分がKONOの珈琲塾で最初の修行をしたので、機能的にも、デザイン的にも、どうしてもKONO贔屓になる。

歴史あるKONOロゴがついているだけで、美味しいコーヒーが入りそうな気がしてしまうし、丸みを帯びたサーバーも唯一無二の美しさだと思う。



しかもこの丸みが、紅茶を入れる際のジャンピングにも最高によく機能出るのである。ちなみにサーバーの蓋についている注ぎ口がくし状になっているのは、これが「茶漉し」だからなのである。ちゃんと説明書にもそう書いてある。


ただし、悪いところもあって、ドリッパー(フィルター)のプラスティック素材が劣化しやすく、コーヒーの色がつきやすい。

河野先生に知られたら怒られそうだが、同じ三角錐のハリオに、ガラス製のドリッパーがあって、デザインも良いため、プライベートではこちらを使っている。(ご内密にお願いいたします)



まあ、デザインには好みがあるし、良いデザインの器具を探し回ること自体の楽しみがコーヒーのエクスペリエンスでもある。


ドリップで淹れる際には、ポットも重要だ。

ポタポタと雫状にお湯を入れていくの基本だから、最初のうちはうまくいかない。

これをポットのせいにして、器具を探し回る人も多い。

多少、入れやすい入れにくいはあれど、最終的には慣れの問題です。自分を信じて毎日淹れているうちに、気持ち良いほど上手に入るようになりますから、それ自体が楽しくなるように、気に入ったデザインのものを選んで気長に付き合ってください。

ただし、最近のおしゃれポットには容量が少ないものが多い気がします。

多少お湯は無駄になるのですが、最低600cc前後のものを選ぶと、「傾ける角度」が小さくなり、上手に入りやすいです。



2022年2月23日水曜日

シリーズ:美味しいコーヒーを淹れよう 【2】自分好みの豆を手に入れる

前回の【1】まずは「新鮮な」豆を手に入れるで、焙煎からの鮮度が重要であると述べた。

しかし、コーヒー豆にはたくさんの種類がある。

「どれを選べばいいか」とお店に問えば、「どんな味が好きですか」と逆に訊かれる。

「どんな味があるんですか」と問い直してみれば、おそらく「酸味系か苦味系か」というような答えが返ってくるだろう。

しかし、コーヒーの味というのはもう少し複雑なものなのである。




概ね、専門店で豆を買えば、それは「アラビカ種」の豆である。それがさまざまな国で栽培され、その土地の風味で異なった味になる。

同じカベルネ・ソーヴィニヨン種でもイタリアとフランス、またはチリやカリフォルニアでは、まったく違う味になるし、なんなら同じ国でも畑が違えば味は違うのと同じだ。

そこからさらに、ワイン醸造の工程があるのだから、世の中にあれほどの種類のワインがあってそれぞれに味が違うのも当然だ。

コーヒー豆も同様に、国や生産者で随分味が違う。

そしてコーヒーには「焙煎」という工程がある。

コーヒー豆を緑色の生の状態のまま粉砕して舐めてみれば酸っぱい味がする。

極端に深く焙煎してしまえば、どんな産地の豆も炭になり、同じ苦さになるだろう。

産地で培われた風味を最大限残しながらも、嫌な酸っぱさを感じないようにして、カフェインをはじめとする香味成分を最大限引き出す。

これが焙煎という作業の究極の目的だと、僕は思う。

だから僕にとっての究極のコーヒーは、酸っぱくも苦くもないコーヒーなのである。

さて、振り出しに戻ってしまった。


かくもコーヒーの味を言語化するのは難しい。だからもう少しだけお付き合いいただいて、僕が自分の店のコーヒー・ラインナップをどのように決めたのかをお話しさせていただこうと思う。

アラビカ種のコーヒー豆はエチオピアのアビシニア高原を起源とする。当地ではコーヒーの香りを「花束を抱えたような」と形容するそうだ。

赤道を挟んで南に位置するタンザニアもコーヒーの大産地だが、当地では「柑橘の香」と評される。

両者とも「酸味」寄りの表現だが、随分ニュアンスが違う。酸っぱくも苦くもない「完煎」の状態にして飲んでみると、上手く言葉にはできないが、確かに風味が違うのだ。

この違いを知ってもらうことが、コーヒーの味を体で理解する道標になるのではないか、という閃きに僕は興奮し、確信した。

その確信はいつか、これをブレンドすることで、もっとコーヒーそのものの理解に道を拓くものができるのでは、という思いに変わっていった。

結局酸味寄りの腰高な味に重心を持たせる意味で、落ち着きのある苦味寄りのアジアのコーヒーを探して、ブルーマウンテン(ジャマイカ)の苗を宣教師が移植したというパプア・ニューギニアのコーヒーにたどり着き、この3種の配合で、お店の看板ブレンド『ジリオブレンド』を作った。

もし良さそうなお店を見つけたら、「お店のブレンド」をください、と言ってみてほしい。きっと店主さんの思いが詰まったコーヒーが飲めると思うから。そしてその味を起点にしてお店とお話をしてみてほしい。

それがきっと自分好みのコーヒーを見つける第一歩になるはずです。



次回、いよいよ抽出に入っていきます!

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以下、蛇足的うんちく

お店で売っているのは概ね「アラビカ種」である、と書いたが、正しくは、アカネ科コーヒーノキ属アラビカコーヒーノキ種のこと。栽培品種としてはもうひとつ、アカネ科コーヒーノキ属ロブスタコーヒーノキ種というのがあって、この2種で99%を占める。

コーヒーの世界に分け入っていくと、ブルボンとかティピカとかゲイシャとか品種らしき名称に出会うことになるが、自然、あるいは人為的な交雑によって明らかに味の違う栽培品目(亜種)に付けられた名称で、どちらかというとこちらの方が、味を判断するのに便利な指標と言える。

本稿に書いたように、起源のコーヒーへのリスペクトが僕のコーヒー選びの基本的な姿勢なので、古い品種である、ティピカ、ブルボンを中心に豆を選択している。

エチオピアのゲシャ村で発見された古い突然変異種であるゲイシャ種も以前力を入れて取り扱っていたが、パナマの農園が大ヒットさせて以来めっきり入手しにくくなってしまった。

新しい品種にもいいものがある。東ティモールという新しい国で栽培している「ティモール・ハイブリッド」という交雑種は、洗練と荒々しさを兼ね備えた面白い味だった。こちらはフェア・トレードが乗り出してきて以来、価格が上がってしまい、マイクロロースターで扱うのが難しくなってしまった。

2022年2月22日火曜日

シリーズ:美味しいコーヒーを淹れよう 【1】まずは「新鮮な」豆を手に入れる

コンビニでも美味しいコーヒーが提供されるようになって久しい。

しかし、コーヒーの美味しさの中には、コーヒーを「淹れる」という行為そのものが含まれているような気がする。

そしてコーヒーを淹れるという行為は、豊かな生活の一部であるような気もする。

そんなわけで、美味しいコーヒーを淹れるために必要な手順をまとめておきたいと思う。


まずは、美味しいコーヒー豆がなくては話が始まらない。

最低条件がある。

それは「焙煎からの日数」だ。

僕らがコーヒーを味わうとき、その味わいのすべては、焙煎という工程で焼成された700種類ほどの化学物質から出来ている。










そしてそのカフェインを中心とした味わいの素は、時間と共に失われ、一週間で60%ほどになってしまう。

またその間に「酸化」という化学変化に見舞われ、味そのものの劣化と胸焼けの原因となる。

それらの変化は、冷蔵(冷凍)保存によってずいぶん抑えることができるが、一般的に流通のフェイズでそのような配慮をされたコーヒー豆は稀だ。

本来野菜や肉魚のような流通ラインに乗るべき商品だが、悲しいかな、食中毒のリスクがほぼないコーヒー豆をコストのかかる低温輸送のラインに載せる人はほとんどいない。


というわけで初回から身も蓋もない結論で恐縮だが、「新鮮な」コーヒー豆を入手するためには、「新鮮な」コーヒー豆を販売しているお店を見つけるしかない、ということになる。

一般に「自家焙煎」の暖簾を掲げるお店では、「新鮮な」コーヒー豆を入手できる可能性が高いので、ご自身の生活動線の中でお店を探してみてください。

もちろん、カフェジリオでは毎日「新鮮な」コーヒー豆を販売しております。(詳細は下記リンクよりどうぞ。宣伝かよ!)

カフェジリオGoogle Map











次回は

自分好みの豆を見つけよう

の予定です


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以下、蛇足的うんちく

もちろん、自分で焙煎する、という究極の手段もあるにはあるが、どうしてもある程度のエアーボリュームを使って焙煎しないと、繊細なコーヒーの味を作ることは難しい。

となると、高価な中型以上の焙煎機が必要となってしまい、かなり非現実的だ。

「銀杏煎り」や手回し式の小型ロースターで焙煎することには、手作りをする楽しみそのものがあって、それはそれでとても価値のある趣味だと思うが、それではどうしても届かない場所がある。

表面近くを焦がさずに中心まで火を通すことと、一定時間高熱を与えて高い香味を引き出すことを両立させる二律背反こそが、コーヒー豆焙煎の本質だからだ。


2018年1月22日月曜日

ペーパーフィルターにまつわる誤解

最近お客さまに、白いペーパーは漂白剤の匂いが気になるので無漂白のもの(みさらし)の方がいいですよね?と訊かれた。

そう、世の中には白いペーパーフィルターと茶色のペーパーフィルターが存在する。
一般的に同じブランドのものだと無漂白の方が少し高価なので、そちらのほうがいい、という先入観を産むのだろうか。

なぜ無漂白のほうが高価なのか。
それは、木材からリグニンという物質を取り去るために、漂白剤ではなく、大量の水で洗い流すためコストが嵩むからだという。
そうしてなお、取りきれず残ったリグニンの色があの「茶色」なのである。

まず今回の話の起点となった「匂い」についてだが、その意味では無漂白ペーパーフィルターにこそ「木」の匂いが残っている。

漂白されたペーパーフィルターに「匂い」がありそうな気がするのは、おそらく「漂白」という名称から次亜塩素酸ナトリウムの匂いを連想しているのかもしれない。
しかし現在、(ペーパーフィルターに限らず)紙を塩素漂白で白くしているところはほとんどないのだ。
漂白の過程で生成される有機塩素化合物がダイオキシンの原因物質となるため、世界的に酸素系漂白法への転換が進んでいるのである。
ということは、むしろ匂いが気になるのは無漂白パルプから作られたものではないだろうか。

件のお客さまは、匂いが気になるので白いペーパーを使う時には抽出前にお湯をかけたほうがいいか、と重ねて訊いたが、むしろ無漂白のペーパーをお使いのかたは、使用前にお湯をかけてみてほしい。
ものによっては、溶け出したリグニンが混じった茶色いお湯が出てくるはずだ。


パルプの酸素漂白への転換がはじまったのは、比較的最近のことで、1998年頃だそうだ。
それ以前の時期に、健康志向の高まりに合わせて無漂白ペーパーフィルターが生まれた。
すでにほぼ酸素漂白への転換が終わった今もこれが残っているのは、ひとえに「味が違う」からである。

無漂白パルプから生まれる紙はリグニンが残っているため丈夫で、重い物を入れる袋などに使われる。
残存リグニンから出るかすかな木の香りと、緊密な紙質が抽出に影響を与えるのだろう。
その差は微々たるものかもしれないが、微々たる違いを追い込んでこその趣味とも言える。

しかし木を見て森を見ず、になっては面倒な手数をかけてコーヒーを淹れる甲斐がない。
焙煎によって生じた多くの香味成分の複雑なバランスを、なるべく純粋な形で味わうならやはり、ペーパーは漂白されたペーパーのほうがいいと思う。


2017年7月17日月曜日

ドリッパーの選び方

お店ではKONOの新型ドリッパー(コーノ式では「フィルタ」といいます)MDK-21を愛用している。
もともとは2015年のコーノ90周年に合わせて発売された記念モデルを、再発売したもの。
しばらく在庫切れになっていたが、復活したようなので再度ご紹介します。


開発元のコーヒーサイフォン株式会社のオンラインショップで買えます。
→珈琲サイフォン株式会社 Webショップ

新型のポイントは、中央にある「リブ」が極めて短いというところ。



最下部から上に伸びている「畝」のようなものがリブで、この部分だけペーパーと器具が圧着されず空気が通ってコーヒー液をサーバーに導く役割をする。
左が前モデルのMDN型で、右側のMDK-21に比べると明らかに「畝」が長いのがわかるだろう。
抽出において、これがどういう差を生むのかというと、
リブが長ければ落ちやすく、短ければ落ちにくくなるのである。


落ちにくい器具では、じっくり抽出されるため味が濃く出る。
が、少しずつ注湯しないと、すぐに溢れてしまうため注湯作業は格段に難しくなる。
だからMDN型を選ぶかMDK型を選ぶかは、味と作業難易度とのトレードオフということになる。

もうひとつ、実に好対照というべき製品があって、それがハリオV60。



リブがフィルタの全体を覆うように入っているのがわかるだろう。
お湯は入れた量に素直に追随して落ちていく。
作業的には非常にスムースで、判断に迷うことがない。
ゆっくりと湯を注ぎ続けることができれば、現在のドリップ系の器具の中で最も作業の楽な手段かもしれない。

さらにこのガラス製のモデルは実にスタイリッシュだ。


そのうえAmazonで買える。
そういう意味でもスタイリッシュ。

ちなみにコーノとハリオのペーパーは完全互換で、どちらのものも使える。
入手しやすい方を使えばいいだろう。

で、正直なところ書いている僕も、ここに挙げた三種のフィルタで、それほど味の差はないと思っている。
この仕事を始めた頃は、そりゃコーノ一択でしょ、と思っていたが、だんだんどの器具でも同じ味に入れられるようになってきた。

器具の違いは結局作業上の「感触」の違いのようなものだから、直感で選んでいいと思う。
好みのデザインとか、プロっぽい感じとか。

その後、使って慣れて自分の味を作っていく。
そういう感じでいいと思う。


2017年5月1日月曜日

ドリップバッグという方式について少し補足

ドリップバッグを商品化してから、自分でも何度か使ってみて、さらに勉強のため他店、他社のドリップバッグも淹れてみて、すこし説明を補足しておきたくなったので、書きます。


以前の記事で、ドリップバッグは実はドリップではなく「浸漬法」なのではないか、と指摘したんです。
浸漬にかかる時間は約4分、抽出自体には2分かかるかかからないか、というところだろうから2分ほどの蒸らし時間を追加したほうがいいだろう、というのがその時提示した実際の手順でした。

しかし、ことはそう単純ではない、とわかってきたんですね。
同じ淹れ方でやってみても、家人と私では出来上がったコーヒーの味が違う。
私が淹れると、ドリップで淹れた時とさほど変わらない味がでるんですが、家人のほうは味が出てないんですね。
で、そういえば家人はドリップで淹れてもこういう味なんです。
味の輪郭はきちんと出るんだけど、中身が薄い。

漬け込んでいるだけなら味に違いは出ないはずで、やはりポットからの注湯の分量や勢い、間隔などの要素が味に大きく影響するのだろうなあ、と。

ドリップコーヒーでこういう差がでることはよく知られているんですが、通常の半分以下の量で入れるドリップバッグでは、ほとんど無視できるものと思い込んでました。
とんでもない。

で、そういう目で(舌で?)他社のドリップバッグを試してみると、量が少ないから、という以前に味が劣化していると感じられるんです。
それも当然で、ドリップバッグは商品特性上、挽いてから時間が経っているものが多いですから。

美味しい豆で作ってあって、鮮度が高ければドリップバッグでも、ハンドドリップ並みとはいかなくても、そのお手並みなりの同じ手触りのコーヒーが淹れられるんです。
ということで、本質的にやはりドリップバッグはやはり、どうしようもなく「透過法」だった、ということで訂正しておこうと思います。

2016年10月3日月曜日

嗜好品で正解がないからこそ、やっていることの理由を知っておいたほうがいい。

10月1日は、全日本コーヒー協会が定めた「コーヒーの日」でした。
北海道新聞にも、それに合わせて「美味しいコーヒーを淹れるコツ」についての記事が掲載されていました。


「入れて探す自分だけの一杯」というキャッチがいいですね。
まさにその通り。
本文中にも取材に協力された宮越屋珈琲の宮越社長の言葉があります。
「コーヒーはあくまで嗜好品。(飲み方などに)正解はない」と。
そしてそれは入(淹)れて探すのだということです。

コーヒーの味はわかりにくいものです。
それはカフェインの苦味が味の主体になっているからです。
苦い味は基本的に「毒」の味です。

カフェインは、種子を虫などの外敵から守るために植物が持っている毒で、これがあるためコーヒーノキは樹木としては非常に寿命が短い。
しかしそれでも種子をなるべく多く、広い範囲に残すことを生存戦略として選択して、カフェインを身中に作るのです。

そのカフェインは致死量があるところからわかるように、人体にとっても毒です。
だから、脳は、苦味の味覚を積極的には愉しみません。
そういうわけで、コーヒーの味がわかるようになるためにはある程度の経験をこなす必要があるのです。

その経験ももちろん効率的なほうがいい。
そのために「淹れる」という行為が有効です。
なぜか。
それを記事に沿って詳しく見ていきましょう。


記事では「豆の鮮度が大切だ」と言っています。
その通りです。
ですがコーヒー豆が水分を吸収して香りや味が劣化するという説明はちょっといただけない。

味の劣化の原因は二つ。
ひとつはコーヒーの味を構成する800種類ほどの化学物質が焙煎によって焼成されたものであるため時間が経つと分解されてしまうことです。
6日間で60%もの成分が失われてしまいます。
もうひとつは空気中の酸素と豆の油脂分が反応して起こる酸化です。
これがおこるとおかしな酸味が生まれ、胸焼けの原因になります。

どちらも低温で保管することで進行を遅くすることができますから、冷凍庫での保管をお勧めしますが、決定的な対策はそれではなく、実は「ミルを買うこと」なのです。
どちらも空気に触れている面で起きる現象で、挽かれてしまった豆の表面積は、そのままの豆の約800倍と言われていますから、劣化のスピードも800倍ということです。


次に記事ではペーパードリップ/ネルドリップでの湯の注ぎ方に言及します。
「豆の中心の500円玉くらいの範囲に低い位置からゆっくりと湯を注ぐこと」とあります。
まったくその通り。

しかしそれは記事にあるように「豆にかかる圧力を均一にするため」ではありません。
上の写真に概念図が載っていますが、圧力はあのようなベクトルではかかりませんし、そもそもゆっくりと言っているのだから水圧はかかっていない。
かかっているのは気圧と、水を引っ張る重力の力で、いずれも地面に対して垂直に掛かる力です。
そしてコーヒーの抽出に使っているのはもっぱら「重力の力」で、この重力の力だけでゆっくりと湯を引っ張ってより多くの味を抽出しようとしているのです。
そのために、余計な水圧を掛けまいとして「ゆっくり」湯を注ぐというわけです。


さて、続いて記事を見ていきましょう。
次は温度です。
95度から90度で、という温度指示ですが、とてもいいですね。
10年くらい前までは80度程度の低温派が主流だったんですが、ようやく修正されてきました。
これはコーヒー豆の油脂分を励起させて、多くの化学物質からなる本来複雑なコーヒーの味わいを均等に味わう助けになります。
記事にあるような高温では苦く、低温では酸味が強調されるというのは、僕自身は経験したことがありませんし、味を変化させるために温度を変えるというのはお勧めできません。


また記事にある「豆の量は一杯につき、約10グラム」というのは「器具によって違う」というのが正しいです。
また、いずれの場合も「一杯」で淹れるというのは抽出原理を考えれば避けた方がいい。
ペーパーやネルといった透過法の抽出では記事のとおり少し多めにすると味が良くなるのですが、その最小量の限界点が二杯分なのです。
一杯分では基本的に豆の量が少なくて充分な味に届きません。
(ドリップバッグをお勧めしない最大の理由もそこにあります)

またサイフォンでは決められた粉の量より多く入れると味が濁ります。
浸漬法(フレンチプレスなど)では指定通りの量と時間を守ることが肝要です。


嗜好品で正解がないからこそ、やっていることの理由を知っておいたほうがいい。
僕はそう思います。

2016年3月23日水曜日

粗挽きはやめておきなさい

開業前に一年かけてコーヒー修行をした。
市民講座やカルチャースクール、雑誌社主催のセミナーなどからはじめて、三つほど本格的な珈琲塾にも入塾して学んだ。

いろいろ学んだが、真理だなと思ったのは「そこに10人コーヒー屋がいれば、10通りのことを言う」という一言だ。
器具の優劣、湯の温度、焙煎機の方式やバルブの使い方など、多岐にわたって、本当にいろいろな意見と理由があるものだなと思った。
しかし、不思議と挽き目の細かさに関してだけは、どの先生も一貫して「中細挽き」を採用して、器具を変えても特に挽き目を変えることはなかった。

中細挽きとは、カリタの電動ミルでも、FUJIローヤルみるっこでもメモリを3.5にセットすればいい。
これを手動のミルでやろうとすると挽き目を毎回同じにするだけで大変だ。
電動ミルをお薦めする理由のひとつだ。



僕自身の約十年の経験で言うなら、挽き目を「中細挽き」に固定することには合理的なメリットがあると思う。
多くの同期生とコーヒーを学んで、同じ豆を同じように挽いて、同じ器具で淹れたコーヒーを嫌というほど飲み比べたが、本当に嫌になるくらい味が違う。
さらにその後先生の淹れたコーヒーを飲めば、これが本当に同じ飲み物なのかと思うくらいだ。
そして、ここまで同じ条件でコーヒーを淹れているのだから、違う箇所はドリップの手加減しかないはずなのだ。

だから、先生が淹れているのを凝視して、湯の細さ、タイミング、粉の状態変化などを研究した。
例えば、注滴の前にコーヒーの粉をなるべく平らに均しておくといったような「コツ」に類する部分はすぐに真似できる。
しかし、湯を注いだ後の粉の変化に対応して注湯部分を変えていくような「ワザ」はなかなか会得できない。
経験を積むしかないのだ。
そのような言語化さえも困難な「ワザ」が要求される局面では、なるべくその他の変数は無い方がいい。
おそらく粉の挽き目などは真っ先に固定しておくべきものだろう。
そして、手先が不器用で「劣等生」だった僕でも、中細挽きでならなんとかまともなコーヒーを淹れられるようになったのだ。
相当器用な人ならもしかして、粗挽きでも充分味を出せるのかもしれない。
しかし、そこに何の意味があるのだろう。
ドリップで美味しいコーヒーを淹れるには、少なくとも目玉焼きを美味しく焼く程度には「技術」が必要だと思う。その技術だけに集中するために変数は少ないほどいい。
「コツ」に類する部分は、科学的な根拠に沿ってなるべく固定するのがいいはずだ。
挽き目に関しては、中細挽きがいいと思う。
根拠に関しては、こちらの記事に一度まとめてある。
→Cafe GIGLIO Blog:「粗挽き、ネルドリップ」ってうまいのか

YouTubeなどにもコーヒーを趣味とする人たちが自分の抽出を動画にして上げているのをよく見かけるようになった。
そこでは驚くほど多くの人がドリップなのに「粗挽き」でコーヒーを淹れている。
「今日は粗挽きにして、すこしゆっくり目に淹れてみます」などと解説しながら淹れているのだ。
もう開始20秒くらいで粉が白くなって露出オーバー(写真の「露出」ではなく、コーヒー豆の味が出きってカスカスになった状態を個人的にそう呼んでいます)になっている。
それはそうだろう。
湯に漬け込んで抽出する「浸漬法」(=プレスやサイフォン)を使う時、この方式では灰汁が入ったまま仕上がるので、それを抑えるために粗挽きにするのであって、ドリップの味を変えるために採用する方法ではないのである。

それでも確かにそうすれば味が変わるのは事実であり、それを楽しむ趣味の範疇でやっていることなので、とやかくは言うまい。
しかし一般の人は、オーディオマニアよろしく音楽ではなく、音の変化を楽しむような趣味は無く、美味しいコーヒーの淹れ方を知りたいだけなのではないだろうか。

そんな時、人は器具のトリセツを読むはずで、しかし実際トリセツは読まれないのが常だ。
そう思って、改めてKONO式ドリッパーのトリセツを読んでみたが、書かれた時代が古いのか、当のKONO式珈琲塾で教わったことと違うことが書いてあったりするのだから、これはもうどうしようもない。
ミルの方のトリセツも読んでみたが、どんな器具ならどの挽き目という解説も書いていなかった。
ネットでは、わりと多くのユーザーが、みるっこの挽き目を「6」にセットしていると書いてあったが、これはかなりの粗挽きになる。
味は充分に出せているのだろうか。
うーむ。

トリセツはあてにならないようなので、とりあえず一言だけ申し上げておく。
粗挽きはやめておきなさい。

2014年7月20日日曜日

コーヒーエンジニアリングの時代と、アイスコーヒーの真理

今年2014年のコーヒー業界最大のニュースは、10月に予定されているブルーボトルコーヒーの日本進出だろう。
先月のWIREDで特集が組まれていた。

WIRED VOL.12 (GQ JAPAN.2014年7月号増刊)

コンデナスト・ジャパン (2014-06-10)

ブルーボトルコーヒーが世界から注目されている理由は、サンフランシスコの小さなカフェで、ひたすら焙煎の実験を繰り返し、美味しい珈琲を追求していたジェームス・フリーマンの作る珈琲が素晴らしいということはもちろんだが、それ以上に、ブライアン・ミーハンというマネージャーがアップルを始めとするテック系出身の大物投資家を口説いて出資させているというニュースバリューにある。

完璧主義者のジェームス・フリーマンは、どこかスティーブ・ジョブスを彷彿させるところがある。
珈琲がうまけりゃそれでいい、ではなく、ディテイルを研ぎ澄まして、店舗や道具選び、商品の佇まいなどをコントロールしている。
シスコの店内の様子を写真で見ているだけで、アップルストアから感じる特別なエクスペリエンスが、ここにもあると確信できる。

この特集の中で、ブルーボトルコーヒーの創業者ジェームズ・フリーマンが「なぜ市販のアイスコーヒーはこんなにまずいんだ、と思って自分でも試してみると納得行く理由がいくつも見つかった」と言っていた。

この記事ではその具体的な理由には言及していないが、思い当たるフシはある。
この季節、お客様からはアイスコーヒーに関する質問が多く寄せられるからだ。

お客様が自分でアイスコーヒーを作ってみて、うまくいかないポイントは概ね「充分冷たくならない」と「薄くなってしまう」ということに集約できるようだ。
で、この二つは、充分冷たくならないので氷を足す、そうすると薄くなる、ということだから 同じことを言っているわけだ。

ブルーボトルコーヒーでの、このアイスコーヒーへの回答は「冷水で18時間かけて抽出する」というあっけないほど正攻法の水出し珈琲(ダッチコーヒー)だった。
確かにひとつの正解であるし、パック詰めして販売するルートを持つブルーボトルコーヒーにとっての最適解でもあるのだろう。

しかし珈琲の旨味成分には湯によって抽出しなければ、溶解しない成分がある。
また、油脂分を熱によってエマルジョンすることによって味を活性化するのも珈琲の醍醐味である。
そしてこうした珈琲の味の<膨らみ>こそ経時劣化に晒されやすく、決して流通ルートに乗せられない、<調理>によって作られるべき部分なのである。

ではどうするか。
その回答もWIREDに書いてある。
(またしても!)アップルのエンジニア出身で、昨年パーフェクト・コーヒーという豆売業を起業したニール・デイが言う。
「グラインド(挽く)がコーヒーの味を一番左右するのに、挽くべきコーヒーの粒子の大きさを正確に計測する方法が未だに確立されていない」と。
ニール・デイは、熟練のロースターに挽いてもらった豆の挽目を画像解析技術で再現するシステムを開発して、この豆売り業をスタートアップした。
非常に示唆に富んだ話だと思う。

なにしろグラインドがコーヒーの味を一番左右する、というのはまったくもって真理である。
寄り道したくなる誘惑を振り払ってアイスコーヒーにこの真理を応用すると、氷を使えば薄くなってしまうのだから濃い味のコーヒーをあらかじめ作ればいい、ということになり、そして濃い味は、挽目を細かくすれば実現できるのである。

ここで問題は、よく家庭で使われている手回しミルでは充分な細かさに挽くのに時間と労力がかかりすぎるということだ。
機械式でも、スイッチを押している間カット刃が回り続けるタイプのものは、挽目を再現するのが難しい。
しかし安心してほしい。
ここは日本で、日本にはKalitaがあるのだ。

Kalita ナイスカットミル (シルバー)
Kalita (カリタ)
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このナイスカットミルという機械には、挽目を設定するダイアルがついている。これを一番細かい目「1」にセットしてスイッチを入れれば、いつでもアイスコーヒー用の粉が出来上がる。
この細かい挽目の粉20~25g程度(二人分)をペーパードリップにセットして、湯を注ぎ一人分の量のコーヒーを抽出すればいい。
それをすこし大きめのサーバー(4人用のものがいい)に氷を満たし、抽出した液を入れ、蓋をして零れないように振れば、アイスコーヒーの出来上がり。
氷を入れたグラスに注いで、あとは飲むだけ。

ついでに言うとミルのダイアルを「3.5」にセットすれば、いつだって最も適切なペーパードリップ用の粉が出来上がる。

ニール・デイの言っていることは本当で、ミルによって出来上がる粉の「揃い具合」がずいぶん違っていて、だからこそ、彼は画像解析技術なんかを使ってハイテクな粉砕をするわけだ。でも日本ではこのKalita社のナイスカットミルという手頃な価格のジャパンメイドの機械がその熟練の粉を作ってくれてしまう。家庭で充分作れてしまうのだ。

ニール・デイのパーフェクト・コーヒーでは、「世界中の家庭に挽いた粉を売る」というビジネス・モデルを実現するために、挽いてしまえば急速に酸化する粉を無酸素でパッキングするシステムを開発したそうだが、酸化しなくても、焙煎によって焼成したコーヒー豆の化学成分は6日間でその60%が失われる。 そして失われてしまわなければ炭酸ガスの発生は止まらず、無酸素のパッキングも出来ない。
残念ながらその方法ではいわばコーヒーとしては「死んだ」ものを流通させることになってしまう。
本来のコーヒーの味を引き出すもっとも重要なポイントは、「焙煎鮮度の高い豆を入手して、飲む直前に挽く」ということなのである。

修行時代に世界で最も定評のあるスイスのディッティング社の20万円以上もするミルを使わせてもらっていた。
確かにそのミルでなければ届かない味があるとは思うけど、だからこそ1万5千円ちょっとのKalitaがここまでの味を出すことが信じられないぐらい凄いことじゃないか、とかなり真剣に思っている。
コーヒーを入れるという行為を<調理>としてとらえた時に、メイド・イン・ジャパンのこの機械は欠くことのできない道具だと思う。

そういえば、ブルーボトルコーヒーは店舗ではペーパードリップで一杯ずつ落とすスタイルだが、フィルタはBONMACというKalitaのコピーを使っている。もちろん日本製だ。
ブルーボトルとともにサード・ウェイブの一翼を担う、サイトグラス・コーヒーでは、ハリオのV60の耐熱ガラスバージョンのものを使っている。


ハリオのV60は、コーノ式のドリッパーの生産を共同で行ったことから出てきた製品だが、この両者は日本の理詰めの道具作りのひとつの到達点と言えるだろう。
Kalita社のミルとあわせて、日本は、おそらく家で美味しい珈琲を飲むための環境に最も恵まれた国であるといえるのではないだろうか。

2014年4月29日火曜日

だからマーロウはかっこいい

NHKでやっているドラマ「ロング・グッドバイ」いいですね。
ロバート・アルトマンが撮った映画版もよかったけど、何よりも、換骨奪胎に<意識的>な脚本が本当に素晴らしい。

もちろんマーロウを自分なりに噛み砕いて表現したアルトマン映画主演のエリオット・グールドの演技は、それ自体がかっこよくて素晴らしかったわけだけど、アメリカ人がマーロウ名で演技しているわけだから、猫なんか可愛がらせたぐらいでは所詮変奏曲の域を出ない。

その点、NHKドラマの場合は、どうしたって日本に持ってきた時点で、もうだってマーロウだもんと言い張るわけにはいかないから、その探偵の奇異な行動規範に一定の説明が要る。
ことに本作の場合、テリーとマーロウなら「なぜか気が合う」で済むわけだが、増沢と原田の場合、そうはいかない。
だから脚本はここを丁寧に描写し、結果テリー(原田)の人物像はもしかしたら原作以上に深まったかもしれない。

チャンドラーの描いたマーロウってのは、あくまでも当時の西海岸のスポイルされた空気の中で成立した、いわば<浮世離れした>人物像だったから、翻訳が村上春樹になっただけで人格が変わってしまうような繊細さがあった。
それゆえに、原作と映画の180度違うラストが成立したとも言える。ではNHK版のラストはどうなるか。嫌が上にも期待が高まる。

そんな素晴らしい脚本にも、珈琲屋としてはちょっと残念なところがあった。
マーロウはコーヒーを愛している。
だから、敵が事務所に踏み込んできて銃を向けていても、「コーヒーを飲むか?」と訊く。そしておもむろに豆を挽く。
で、我らが浅野マーロウもコーヒーを挽き、サイフォンで淹れる。

ところが、浅野マーロウがコーヒーにこだわりのある男だと示すファースト・シーンでの淹れ方がおかしい。
最初に湯を沸かすフラスコに珈琲の粉を入れてしまっている。これではトルココーヒーだ。もちろん演出上のわかりやすさから作られたシーンなのだろう。
せっかくだから、このシーンを補うため、サイフォンでの珈琲抽出をこのページで再現しておこう。


まずフラスコに水をいれます。この時、絶対にフラスコの外側が水で濡れていないことを確認して下さい。水滴なんかがついていると加熱した時フラスコが割れます。これ、実はサイフォンを使う時一番重要なことです。


次に上部にセットする漏斗に珈琲の粉を入れます。このKONOの器具はネルの代わりに扱いやすいペーパーを使っていますので挽目はドリップと同じ中細でいいのです。問題は量です。サイフォンは浸漬法で、抽出に使った液はすべてカップに出ますから、粉は少なめにしないといけない。一人分7gくらいでいいです。



これが、ペーパー仕様のフィルターです。ネルは使用後、水につけて冷蔵庫で保存しなくてはなりません。生活の中で現実的に使うにはペーパー式がいいと思います。


さてやっとアルコールランプに着火。ポコポコと底から泡が出てきたら漏斗を挿してください。


挿すとすぐに湯が上に上がってきてコーヒーの粉を浸し始めます。湯がコーヒー層の真ん中を割って山が崩れたら・・


このように竹べらを「縦に」入れて混ぜます。
その時間40秒。
混ぜることと、その時間が正確に40秒であることが、二番目に大切なポイントです。


40秒たって、アルコールランプの火を消すと、抽出された液がフラスコに落ちてきます。
その時、良質の豆を使って適切な時間抽出された液には、このような金色の泡がたっているはずです。


漏斗を抜いて完成です。
タオルでフラスコをしっかり押さえて、漏斗を前後に揺らして外してください。


ね、えらく手間のかかるやり方でしょう。
銃をつきつけられてできるこっちゃないですよ。
だから、やっぱりマーロウはかっこいいんですよね。

2012年10月4日木曜日

おいしいコーヒーのいれ方 part-7 最終回・サイフォンとフレンチプレス

 僕が最初に本格的に師事したお師匠さんは珈琲サイフォン株式会社の社長なわけだから、当然サイフォンの手ほどきを受けている。
これが本家コーノのサイフォンだ。


この会社の製品は、漢の珈琲って感じでいちいちかっこいいのである。それに、コーノではすでにろ過にネルを使っていない。サイフォン用のペーパーを開発して使い捨てとしたのだ。ただでさえ、面倒なサイフォンの儀式のひとつが大幅に簡略されているわけで、この一点だけでも、現在他社のサイフォンをお使いの方は乗り換えを検討する価値があると思う。例によってペーパーを入手しにくいという欠点はあるのだが。

さてサイフォンで使う豆の挽目についてだが、少し細めという話をよく聞くが、本家コーノではそんなことはまったく言っていない。ドリップと同じ中挽きを使っている。サイフォンは浸漬法であり、湯の浸透力を使って抽出する。細挽きにするのはエスプレッソのような外部から圧力をかけて抽出する場合に使う方法だ。エスプレッソでは内部で9気圧もの圧力をかけて短時間で強く抽出するため細孔内の800種類の化学物質を露出させておくぐらいの細かさにしておく必要があるからなのだ。

粉の量もドリップと同じ一人分12g。ドリップと違って一人分で入れても四人分で入れても味は変わらない。そして、ドリップの時いい忘れたことだが、ドリップもサイフォンも2人分は24gでいいのだが、人数が増えて例えば4人分になったら40gで充分入る。そしてサイフォンではきっちり40gにしたほうがいい。サイフォンはいろんな場面で厳密さが要求される入れ方なのだ。

後は加熱器に点火する前にかならずフラスコの下部に水がついていないようにどんな場合も一回かならず乾いた布で拭いて欲しい。一滴でも水滴がついた状態で点火するとかなり高い確率でフラスコが割れる。そうなると結構な惨事になるのでご注意いただきたい。

サイフォンには構造的に大きな欠陥があって、それは短時間ではあっても珈琲豆を100度のお湯で煮沸する、ということである。煮沸させすぎれば灰汁まみれの珈琲になってしまう。だから、この煮沸の時間を厳密に守る必要があるのである。
そしてその時間は、二人分で50秒。四人用以上で40秒。
しかしこの中には粉をかき混ぜる時間が入っているため、実際の運用ではお湯が上がってきてポコッと表面が割れたら素早く竹べらでかき混ぜて(その時ぐるぐる回してはいけない。縦に切り込むように混ぜるのだ)そこから二人分40秒、四人分30秒と測るのがやりやすいと思う。

サイフォンの良い所は数値を守って入れれば必ず同じ味に仕上がることだ。ドリップは湯の入れ加減で毎回味が変わる。そこが面白いと僕などは思うのだが。


次に、フレンチプレスについて。

これがたぶん世界で最も多く使われているボダムのフレンチプレス。「紅茶に使うやつですね。珈琲も入れられるんですか」と言われることがよくあるが、これは珈琲のために作られた器具で、もちろん紅茶もいれられないこともないが、対流が起きにくい構造になっているからできるだけ使わないほうがいいだろう。

まず、粉は荒挽き。
金属製のメッシュでフィルタリングするので、詰まらないようにしたいのだ。

この器具についているスクープは7g。ドリップやサイフォンのように杯数が増えた時に粉の量を減らす必要はないと思う。ドリップと同じように90度くらいの湯を入れる。
湯を入れたら竹べらでかき混ぜる。(のに、なぜかこの器具にはかき混ぜる道具がついていない。不思議だ。)サイフォンのようにぐるぐる回さずに縦に切り込むように混ぜて欲しい。
さて、この器具も浸漬法なので時間が重要だ。
4分から4分半かかる。これ、けっこう長い。何故かというと荒挽きにしているから。時間をかけないと抽出できないのだ。珈琲は湯に漬けてから1分半くらいで急速に灰汁を生成する。私がこの抽出法を推奨しない理由がここにある。
プレスを愛好する人の主な理由は金属製のメッシュが、ドリップでは紙に吸われてしまう脂分をきちんとカップに出してくれる、というものだが、そのメッシュが荒挽きを要求し、長時間の浸漬を強いて、余計な成分を生成しているのである。
もうひとつ、これはサイフォンにも共通するのだが、飲んだ後の器具の掃除が大変さだ。抽出後、ガラス容器にべったりはりついた粉を流しに捨てるのも手間だし、当然油脂分をたっぷり流したそのあとの排水口の掃除はちょっと想像したくない。
もちろん、どの方法も一長一短あり、どちらを選ぶかは味次第ではあるし、現在使っている器具を使い込むことで上手に入れられるようになるというのも大事なことだと思う。

さてここまで7回にわたって、珈琲の入れ方について書き連ねてきた。最後までお付き合いいただいた皆さん、本当にありがとうございました。
ここで一旦シリーズを閉じて、また機会を見て、珈琲の歴史や薀蓄系小話などを書いていきたい。
それぞれのご家庭に美味しい珈琲の香りが満ち、幸せな時間を彩ってくれることを心からお祈りします。

-end-

おいしいコーヒーのいれ方 part-6 続・コーノ式の正しい使い方

さあ、お湯と粉は準備ができた。さっそく入れてみよう。フィルタにペーパーをセットしてその中に入れる。そしてここが最初のポイントだが、粉を出来るだけ平らにしよう。左右に、えっそんなに?というくらい強く速く振ると平らになる。これはとても大事なので何度も練習しよう 


平らになったら、お湯を注ぐ。ここで第二のポイントだが、正確に真ん中にだけ、あくまでも「滴(しずく)」をぽたぽたたらすのだ。そうすると、粉が新鮮なものであれば、炭酸ガスが発生し膨らんでくる。



真ん中にハンバーグみたいなのが乗っているのがみえるだろうか。これが外周部に達するまでポットを回さずにただひたすらに真ん中にポタポタやり続ける。と、こうなる。


外周部に達した時、コーヒーの最初の一滴がぽとりと落ちるのが理想。均等に広がらないと先に外側を伝って薄い液が落ちてしまう。あくまでも中心部の「長い」距離を使ってコーヒーのエキス分を抽出したいのだ。だから厳密に表面を平らにしておく必要があったというわけ。またこの膨らみは湯をその全体に抱え込んでじっくりフィルタ内の粉全体に湯を行き渡らせる役割を担っており、その意味でも豆の鮮度や、挽きたてであることが重要なのだ。

さて、この時、一般に言われているような「蒸らし」は絶対にしてはいけない。一度湯に漬けた粉を放置しておくのは灰汁成分の発生を助長するので厳禁だ。500円玉くらいの大きさを目処に中心から「の」の字を書くようにポットを回しながらお湯を入れていく。40%くらいの量まではゆっくりと、それ以降は少しお湯を多めにして入れていく。湯面が、フィルタの一番上から下に下がらないように、常にお湯がいっぱいフィルタに入ったままにしておくのだ。結果的に、スピードを変化させながら間断なく湯を注ぎ続けることになる。この加減でも味が変わっていく。最後までゆっくり入れていると、苦味の勝った味になる。一度にたくさん入れると味が薄まる。このあたりは試行錯誤でやっていくしかないだろう。

そして欲しい量が抽出できたら、湯がいっぱい入った状態で外す。



塾ではカップを用意しておいてそこに移動させたが、サーバーを持って流しの上で外してもいいだろう。

しばらくすると、湯が全部おちて粉が姿を現す。



このようにきれいなスリコギ状になれば成功。ゆっくり入れすぎると平らになってしまい、美味しい部分が抽出不足で苦味の勝った味になってしまう。真ん中に白く見えているのが灰汁だ。これをサーバーに落とさないために間断なく湯を注いできたのだ。



これでコーノ式コーヒーが完成した。
カリタもメリタもこのやり方で今までよりも純度の高いコーヒーが抽出できると思う。ドリップ系の器具をお持ちの方はぜひためしてみていただきたい。

次回はドリップ以外ではメジャーなサイフォンとフレンチプレスについて(ごく)簡単に(ではあるが)ご説明したいと思う。

おいしいコーヒーのいれ方 part-5 コーノ式の正しい使い方

 さていよいよ実際にコーヒーを入れていこう。
前述したようにいろんな入れ方があるが、手始めにオススメした「コーノ式」を取り上げる。
会社を辞めてコーヒー修行をはじめて最初に本格的な指導を受けたのが、珈琲サイフォン株式会社の河野社長だった。コーノ式ドリッパーは現在の河野社長のお父様が作ったもので、社長は子供の頃から家でコーノ式ドリッパーを使って珈琲を入れていたそうだ。なにしろキャリアが違う。社長が珈琲を入れる手つきはまるで魔法かなにかを見ているようで実に美しい。出来上がったコーヒーも夢のように美味しい。しかし、珈琲サイフォン社では喫茶店は経営していないので、コーノ珈琲塾に入塾した者でないと、このおそらく日本で一番美味いコーヒーは飲めない。なんと勿体なくも貴重な体験であったことか。そしてこの社長の入れ方は特殊すぎて誰にも真似ができない。みんな真似しようとして失敗するが、社長はそれを見て「どうしてそうなっちゃうのかなあ」とおっしゃるだけ。たぶん自身には自然すぎて本当にどうして出来ないのかわからないのだ。
そこでは完全に入れ方をマスター出来なかった私は、そのドリッパーを作った先代に師事したという方が主宰するコーヒー研究会に入った。その方は見事にコーノ式の手順を言語化しており予想通り独自の手順を加えて補強していた。やっと再現可能な手順に出会ったので、これを一ヶ月ほど反復訓練して私の抽出法とした。今日からお話するのはこの手順である。

まず珈琲豆を挽こう。
もちろんお店で挽いてもらったっていいのだが、豆は挽くと表面積が800倍に増加する。つまり800倍のスピードで酸化するということだ。豆のままの方が断然保存性が高いのだ。酸化すると味が悪くなるのはもちろんだが、湯を注いだ時の炭酸ガスの発生量がガクッと落ちて、ガスで膨らんだ粉の中をお湯を回して抽出することが出来なくなり不利なのだ。
ミルを買うというのは、美味しい珈琲を飲むための投資としてはかなりプライオリティが高いと私は思う。
その際はいろいろ考えずに「カリタ・ナイスカット・ミル」という電動ミルを買おう。操作が簡便であること、性能、メンテナンス・フリーである点、どの点も申し分ない。一生モノであることを考えると価格も高くないと思う。なにしろ日常の道具なのだ。使い続けられるものを買うのが最も安いはずだ。
それにこの製品は、皆さんの粉に対しての最大の疑問、「どのくらいの挽目がいいの」に明快な回答をくれる。手動のミルや、臼の中で羽が回るようなタイプの電動ミルはどのくらいの時間刃を回すのかで細かさが決まるが、ナイスカットミルでは自動でダイヤルで指定した挽目にしてくれるのだ。
挽目で味はかなり変わる。だからこそ、先達が長い時間をかけて探り当てた適切な挽目である「中挽き」からきちんとした味を引き出す技術を習得すべきで最初から、ちょっと細挽きとかちょっと荒挽きとか、挽目を変えることで好みの味を探るのはやめておいた方がいいと思う。

轢いた粉

これが中挽きの粉だ。
さて、珈琲に関心の強い方はだいたい当店にいらっしゃると抽出手順が見えるカウンターにお座りになって手元をじっと見ておられる。そして多くの方は最初にこう質問されるのだ。
「一人分は何グラムですか?」と。
まず、ペーパードリップでは「一人分」で入れてはいけない、と申し上げておきたい。透過法は、重力の力を使って味を引き出す。だから縦方向の「長さ」が必要なのである。特に透過の合理性を追求して円錐を採用したコーノ式ではとくにその傾向が顕著で、一人分の粉では十分な味が出てくれない。二人分から入れましょう。
で、何グラムかだが、これは「器具の指示に従ってください」が答え。

写真を見て欲しい。
スクープ

代表的な珈琲器具に付属してくるスクープ(はい、そういう名前なのです)だが、それぞれグラム数が違う。手元になかったがメリタ式とフレンチプレス(浸漬法)は7g、カリタは10g、コーノとハリオは12gとなっている。
と、お答えすると、うちの器具にはスクープっていうのは付いてなかったなあ、というお客様が驚くほど多い。そういう志の低い器具は買い換えるべきではないか、と申し上げないが思ってしまう。

粉の用意と並行してお湯を沸かす。
必要な温度は90度以上で、沸騰するほど高温でないほうがいいことはすでに書いた。大事なことなので繰り返すが、油脂を加熱して乳化現象を起こし味の活性を図る手法なのだ。ボンゴレ・ビアンコの豊かなあさりの風味を引き出す手法と同じ。私は開店して6年目に至る現在でも温度計を使っている。ご家庭ではやかんの底からでてくる泡が走るくらいのスピードでタタタタと出てきたら90度と覚えておくといいだろう。

温度計

むろん温度計を使えるならそれに越したことはない。

さてそれをコーヒーポットに移す。

ポットお湯八分目

この時、何人分入れる場合でもポットの八分目までお湯を満たして欲しい。ポットを大きく傾けて湯を注ぐと水量のコントロールが難しいからだ。後述するが、お湯はポタポタと雫のカタチで注がなければならないから。

と、準備が整ったところで、以下次回とさせていただきたい。
いよいよ明日からフィルタに湯を注いでいきます。



おいしいコーヒーのいれ方 part-4 続・コーヒーの名前

 前回はついアフリカの豆の話で一回分まるまる使ってしまった。急ぎ足で続きを話そう。

世界で一番コーヒー豆をたくさん作っている国は「ブラジル」である。アメリカという大消費地のお膝元で、国をあげて良質なコーヒーの生産を目指している。国立の「クラシフィカドール」という珈琲鑑定士の学校があったり、「カップ・オブ・エクセレンス」という世界的に注目される品評会も運営している。この巨大になったブラジルのコーヒー産業も、もとはブラジル政府の政策に共感した日本の移民団が大量に移民して開墾した畑が元になっていて、この時の移民団を派遣した水野さんという方に感謝の意を表して、長い間ブラジル政府は無償で大量のコーヒー豆を日本に提供してくれていて、その時水野さんが作ったのが「カフェ・パウリスタ」で・・・なんて、話していると今日はブラジルで終わってしまう。味の話をしよう。
ブラジルに限らず、中南部のコーヒー豆はその地質を反映して、表皮部分が柔らかく内部まで火が通りやすいため、うっかり焼くと苦くなる傾向がある。それでブラジル=苦いコーヒーというイメージになるのだが、皮が薄いので雑味の少ない味で、はっきりと苦さが伝わってくるのも、こういったイメージ醸成に一役買っている。ブラジルでは、コーヒーの生産地では珍しく水を豊富に使えるので水洗式という方法で実を剥がすので、この意味でも味がすっきりしている。世界でも珍しく、手間のかかる樹上で完熟してから収穫する農法を採用している農家が多く、独特の甘さがあるため私はこの農法の農園のものだけを扱うようにしている。

中南米はアメリカという大市場に製品を供給しやすい地勢上の利点を生かした大産地が多くあるが、ブラジルについで有名なのが、「コロンビア」だ。かつて高品質といえばコロンビアという時代があった。現在は不安定な政情の影響もあり、よいコーヒーを作る農家が減ったように思うが、あの腰の座った深みのある苦いコーヒーはやはりコロンビアの豆でしか作り出せない。
少し特殊な味わいを持つのが「グァテマラ」。火山灰性の強い土壌で中南部らしい苦味の後に仄かな酸味を感じさせる。味わいが濃く、家庭でも簡単に十分強い味が引き出せるのでストレートコーヒーの中では人気のある豆だ。

他にもキューバやコスタリカなどご紹介したい豆がたくさんあるのだが、おいおいご説明していきたい。

最後にアジアのコーヒーについて書いて豆編を終わりにしようと思う。
アジアのコーヒーの代表格は何と言っても「マンデリン」だろう。インドネシアのスマトラ島で産出するコーヒーを一般にこう呼んでいる。大英帝国と東インド会社をめぐる欧州列強の思惑が入り乱れて、植民地政策を大きく左右したマンデリン誕生物語もすっごく面白いのだが、これも書いている場合ではない。残念だ。ともあれ彼らのゴタゴタのお陰で世界を代表する高品質コーヒーがアジアから生まれたわけだが、秘密主義が貫かれていて生産の実態は実はあまり詳らかになっていない。輸入元にも農園の場所さえも明らかにされていないものがあると聞いた。近年インドネシアは新興の経済大国となり産業構造もずいぶん、変わってきたのではないだろうか。年々値段は上がっているが品質は落ちてきているように感じる。水洗式と天日式のハイブリッド方式で独特の発酵臭を纏ったマンデリンの伝統を絶やしてほしくないと願っている。
スマトラ島に隣接するスラウェシ島のコーヒーが「ママサ・カロシ」だ。日本ではトアルコ・トラジャとして知られている。今やこちらの方が本家よりもマンデリンらしい味を残している。生産量が極少なので高値だが納得できる風格ある味だ。
これらインドネシアに連なる小さい島々には、良質なコーヒーを算出する国がたくさんある。特に「東ティモール」と「バリ」、そして「パプア・ニューギニア」のコーヒーはどれもバランスの良い上品なコーヒーで、アフリカの高品質コーヒーから激しさを取り去ったような優しい味がする。ジャマイカのブルーマウンテンやハワイ・コナのような手触りといえばイメージできるだろうか。
そのジャマイカのブルーマウンテンだが、まあこれは文句なく旨いコーヒーではあるが、あの値段だからそりゃそうだろうとしか言えない。コーヒーを日常の楽しみにして欲しい当店としてはちょっと扱いにくいシロモノだ。ちなみに品種はエチオピアの在来種と同じもので外見も焙煎時の振る舞いもよく似ている。
ハワイコナは、そういう意味ではコロンビアのコーヒーにそっくりな外見と振る舞いで、それよりもずっと洗練された味がするコーヒーだ。だがまあやはりこれも、そういう値段だよね、としか言えないものではある。
手頃な価格で、うまく焼けばそれ以上の味わいを引き出せる可能性が、これらのアジア小国のコーヒーたちは持っているような気がする。心して焼いてあげたい。

さて、多少(本当はかなり)心残りはあるが、駆け足で世界のコーヒーについて大きく3つのグループに分けてお話してきた。このだいたいの分類を念頭においてコーヒーの飲み比べを試してみて欲しい。自分好みの味がきっと見つけられると思う。

さて次回以降、実際のコーヒーの抽出技術について、すぐに役に立つ「コツ」を中心に書き進めていきたいと思っている。引き続きよろしくお付き合いください。

おいしいコーヒーのいれ方 part-3 コーヒーの名前

さて前回は、どんなお店で珈琲豆を調達すべきかについて書いた。

で、さっそく自家焙煎のお店に行ってみると「キリマンジャロ」とか「ブラジル」とか「ブルーマウンテン」とか「ハワイコナ」とか・・いろんな「名前」の珈琲豆が並んでいる。

味はどんなかいなと説明を読むと、ふむ「爽やかな酸味」か・・酸っぱいのは嫌だな。
どれ「コクのある苦味」か・・何かいろいろ書いてあるようだが、よくわからない。

仕方がないのでFacebookでトモダチがオススメしていた豆を買ってみるか、てな感じになってしまいがちではないだろうか。
今回は、珈琲豆の名前を見てコーヒーの味を判断するヒントについて書いてみたい。


さて皆さんは「コーヒーノキ」にどのくらいの品種があるかご存知だろうか。お店で売っている豆があれだけの種類あるのだから、相当あるだろうと思われるだろうか。
実は三種類しかない。

アラビカ種、カネフォーラ種、リベリカ種の三種類だ。

しかもこのうち飲用に供されているのはほぼアラビカ種しかない。
一部、カネフォーラ種の亜種「ロブスタ種」がエスプレッソ用や工業コーヒー(インスタントなど)に使用されている。

このアラビカ種はエチオピアのアビシニア高原にしか自生していなかったもので、古くから現地人によって様々な用途に使われていた。
イスラム教で霊力のある(眠くならないから徹夜でお祈りできる)飲料として使われるようになって秘薬とされたが、あまりにも美味いので自然と広まっていった。

キリスト教ではもちろん敵性の飲料ということで禁止されていたが、ローマ教皇クレメンス8世が、これまたあまりにも美味いのでコーヒーに「洗礼」を与え、教徒の飲用を許したことで世界中に広まって現在に至る。

この広まり方に面白すぎるドラマが沢山あるのだが、「おいしいコーヒーのいれ方」とは直接の関係がないので今回は(とても)残念だが割愛させていただく。


こうして広がったアラビカ種だが栽培は難しく、北緯25度から南緯25度までの標高1500m以上の高地でなければうまく栽培できない。
逆にいえばこの条件を満たすほとんどの国で現在は栽培されている。

そして世界各地に産地を広げたコーヒーは、その土地の「土」と近接する他の植物の植生に影響を受けて、各地でその形質を変化させていった。
現在確認されているだけで20種類以上の亜種があるし、耐病性や収穫性の高い人工的に作られた亜種もある。

事実上品種はアラビカ一種しかなので、この亜種のことを便宜上コーヒーの世界では「品種」と呼んでいるわけだが、通常品種の違いで味に大きな違いは生まれない。エチオピアのティピカ種を東ティモールで育てても同じ味にはならないのだ。むしろ育った土で味は決まる。エチオピアのコーヒーとブラジルのコーヒーは明らかに味が違う。土で決まるのだから重要なのは「国境」ではない。大まかにコーヒーの味を決める「エリア」を解説していこう。

まずはコーヒーの故郷「アフリカ」について。
原産国エチオピアのコーヒーは、大英帝国がアラブを支配していた頃、東インド会社の主要商材であったが、その際出荷に使われたイエメンの「モカ港」の名をとって長らく「モカ」と呼ばれてきた。当然、イエメン産のコーヒーも同様にモカと呼ばれる。現在は、各地で品質の高いコーヒーを作る努力が実り、「村」単位まで特定して豆を買えるようになったので大くくりな「モカ」という言い方は廃れて、エチオピア・イルガチェフェというような名前で売られている。逆にこういう名前でコーヒーを売っている店は高品質なコーヒーを扱っているという証左になる。
最近ニュースでコーヒーの価格が高騰している、という話をよく聞かれたと思うが、これはニューヨーク相場市場で先物として取引されているコーヒー豆の話で、行き先を失った投機マネーが安定しているコーヒー市場に流れ込んできたというだけの話である。産地の豆をオークションで落札しながら流通している高品質コーヒーには関係ない話なのだ。お店で「国の名前」だけで売られているコーヒーは単体では高値の付かない豆を市場に持ち込んで流通している商材である可能性が高い。名前付きの豆と国名の豆では我々のようなロースターに入ってくる生豆(はい、なままめですね)の価格で2倍近い開きがあり、欠点豆も多く含まれている。地域名がついていればそれでいいというわけではないだろうが、高品質コーヒーを探すひとつの道標にはなると思う。
エチオピアの「モカ」に並んでOldファンに馴染み深いタンザニアの「キリマンジャロ」だが、この国はシッパーと呼ばれる輸出業者が力を持っていて、地域名で豆を出荷しがちな農協依存の多くの国とは違い、しゃれたブランド名を付けて出荷しているケースが多い。「アデラ」「リヴィングストン」「KIBO」「エーデルワイス」などが有名どころか。
「モカ」も「キリマン」も昔からコーヒーを愛飲された方には「酸っぱいコーヒー」のイメージが強いのではないだろうか。しかしコーヒーが酸っぱいのは焙煎が浅いからなのであって、豆が固有に持っている味ではない。ヨーロッパではこれらのコーヒーを他の産地のものよりも深く焙煎するのが通常の流儀で、原産地ならではの複雑な味わいを堪能させている。日本でこれらのコーヒーを酸っぱくしていたのは、アメリカでこれをお茶代わりに浅く焙煎して飲んでいた習慣が戦後広まった影響による。アメリカンコーヒーなるものの由来である。この話、はじめると長くなるので関心のある方は過去記事をご参照いただきたい。
深く焙煎されたエチオピア・コーヒーは「花束を抱きしめたような」香りと現地で言われる馥郁とした香りが特徴で、タンザニア・コーヒーは「フルーティな」と一般に形容される柑橘のような少し強めの後味が特徴だ。このように深く焼いても潰れてしまわない複雑な味わいのことを、潰れた香味が「苦味」であることから対置して「酸味」と呼んでいる。このネーミングがコーヒーの味を一般の人に説明しにくくしている元凶なのだ。酸っぱくないのに「酸味」という言葉を使わざるを得ないほど、コーヒーの味に対するボキャブラリーは進化していない、ということだ。だからご期待いただいてこの記事を読まれている方には大変申し訳無いのだが、当欄でこれ以上の味についての解説はできない。皆さんが自分好みのコーヒーを発見するために各国、各店のコーヒーの味を確かめていく「海図」の役割を当記事は指向している。だから特定のコーヒーをオススメしたりもしない。ぜひ皆さんの感性で各国のコーヒーを味わってみて欲しい。
さて、「アフリカ」のコーヒーを駆け足でご紹介していこう。
赤道直下のケニアのコーヒーもタンザニアと同系統の味だが、はっきりとした味で香りも豊か。わかりやすいコーヒーの代表格と言えるだろう。
そして最近注目を集めているのが、タンザニアの小さな隣国「マラウイ」にしか産出しない「ゲイシャ」という亜種。エチオピアのような花束フレーバーがとても上品で、バランスの良い品種。産出量が少なく今まで注目されなかったが、キューバや、かつて「コロンビア・マイルド」と称され高品質コーヒーの代名詞とも言われながら不安定な政治に翻弄されて苦戦しているコロンビアコーヒーの救世主として期待されて移植され、近年販売量も増えて、かつ結構な高値で取引されている。

今日は、アフリカだけで終えてしまったが、基本的な豆を見分ける構図については盛り込んだつもりなので、次回はその他の地域について解説を試みたい。
しかし、この記事、回を追うごとに長くなっていくが読んでいただけているのだろうか。ちょっと心配だが、せっかくなので必要なことは端折らずに書いていきたい。お付き合いいただければ嬉しいです。


おいしいコーヒーのいれ方 part-2 珈琲豆を調達する

 連載企画「おいしいコーヒーのいれ方」2回目です。前回は珈琲を抽出するための器具として「コーノ式ペーパードリップ」と「コーヒーポット」をオススメした。
では、さっそく珈琲を入れてみたいが、肝心の珈琲豆はどうするのか。
それが今回のテーマ。

当たり前の話だが、美味しい珈琲は美味しい珈琲豆からしかできない。
では、「美味しい」とはどういう味のことを言うのか。

特に珈琲は人によって好みの差が激しい嗜好品であるとよく言われる。
言わんとしていることはとてもよくわかる。

私も自分でタバコを吸っていた頃、タバコを切らして喫煙室で隣にいた同僚にキャビン・マイルドをもらって吸った時、どうしてこんな味のタバコがあんなに売れているのか、どうしても理解できなかったものだ。

珈琲の勉強を始めて三人目のお師匠さんについた時、とにかくたくさんの国の珈琲を10種類、1Kgづつ、というから計800杯くらいの珈琲を一ヶ月で飲まされた。
それが弟子入りの条件だったからだ。

師匠の焼いた豆はどの珈琲もそれぞれにとても美味しいと感じたが、マンデリンというインドネシアの珈琲だけがどうしても口に合わなくて往生した。

しかし、マンデリンを愛する珈琲好きはとても多い。
自分が「美味しい」と感じなくても誰かにとって「美味しい」マンデリンは存在するということだ。じゃ、いったいどうすればいいんだ?

この解は、珈琲が出来上がる工程の中に潜んでいる。したがって今日のお話もややこしく長い話になりそうだが、ご辛抱いただきたい。



珈琲はアカネ科に属する学名「コーヒーノキ」(そのまんまですね)という樹木の種子を煎って湯に(または水に)抽出して飲用するものだ。
この種子自体は非水溶性で、生のまま水に漬けておいても成分は出てこない。

それに硬くて食用もできないが擦り潰して舐めると、とても酸っぱい。
青臭くて嫌な匂いもする。

この珈琲の生豆(なままめ、この場合は絶対に「きまめ」と読んではいけません。生という字は「なま」と読んだ時は「火を通していない」の意味で、「き」と読んだときは「純粋な」という意味になるのです。それぞれ酒や蕎麦の例に当てはめて吟味してみてください)を「焙煎」すると、豆はその内部に平均7μともいわれる微細な孔がたくさん空いて(その分豆が膨らむ)、その孔の中に約800種類にもおよぶ化学物質が生成される。その孔の中に湯を(または水を)通し、珈琲という飲料を抽出するのだ。


この多孔質化は、珈琲豆の中心部に顕著なので、豆全体をむらなく加熱したい。
こういう時人は昔から「温めた空気を使ってゆっくり加熱する」方法を選んできた。

で、これに特化した機構を持つ珈琲焙煎機を使って焙煎するわけだが、近年よく見かける「その場で生豆を焙煎」して販売するタイプのお店には注意が必要だと思う。

多くの場合このタイプのお店は700度近い高熱で90秒で豆を焼き上げる「ジェット・ロースター」という機械を使っているが、調理を経験した人はわかるだろうが急速に加熱すると外周部と中心部の焼け具合には大きな差が出る。

これを積極的に使う中華料理が大火力のバーナーを使う所以である。

実際に今まで飲んでみたジェット・ロースター製の豆はどれも芯残りで軽い酸味が残っていた。
したがってこのビジネスモデルは、味の部分は少々犠牲にしても「鮮度」の方を重視するというもの、ということになる。そしてこのロジックには一理、しかも重大な理があるのだ。

珈琲豆は焙煎してから一ヶ月や二ヶ月で飲めなくなってしまうものではないが、焙煎によって作り出される800種類の化学物質は、一週間で約60%も失われてしまうのだ。

スーパーに並んでいる「自家焙煎店の豆」は流通の仕組みの関係で一ヶ月ほどたったものがほとんどだと聞いている。
またはお歳暮でもらった豆を半年ほど冷凍庫で保管して飲み続ける家庭もまったく珍しいものではない。
家庭で飲まれるレギュラーコーヒーの多くがそういった味の中核を失ったコーヒーであることを考えると、鮮度の高いコーヒーはそれだけで貴重であるとも言える。


それでもやはり最も重要なのは「味」だと思う。
だから中心まできちんと焼けて、しかも焼きすぎていない(焼き過ぎると、化学成分が焼き切れて「苦いだけ」になってしまう)豆を、鮮度が高いまま提供する「誠意ある」お店を見つけることが、美味しい珈琲を入手する最良の手段だ。

逆に言うとジェット・ロースターの普及を許しているのは、古い豆を平気で販売する自家焙煎店が招いた自業自得の事態とも言える。


全国のロースターの80%ほどが採用している「フジ・ローヤル」という大阪の焙煎機は、豆を中心まで熱するのに絶対に欠かせない、釜内の空気量を調整するダンパーを備えた世界でも珍しい機械で、世界のスタンダードであるドイツ、プロバット社のものよりも焙煎という工程の特性をよく捉えていて優れていると思う。
その分、使いこなしが難しいが。


とりあえず、この機械を目印にして、なるべく焙煎の新しい豆を入手する、という基本方針で近所の焙煎店を当たってみて欲しい。
日本の小売の流通を複雑を極めている。珈琲豆は生鮮食料品なのに、スーパーなどでは、そのように取り扱われてはいないという事情を鑑みると、今のところ自家焙煎店で豆を焼いた人から買うというのが最良の手段であると思う。


さて、また今日もお喋りが過ぎたようだ。でも豆選びもまだ端緒である、お店選びが大事だ、という考えてみれば当たり前のようなスタート地点にたどり着いたばかりだ。
次回は、では自家焙煎店に並ぶたくさんの豆ってどこが違うのよ、といったあたりに斬りこんでみたい。