2012年10月4日木曜日

おいしいコーヒーのいれ方 part-4 続・コーヒーの名前

 前回はついアフリカの豆の話で一回分まるまる使ってしまった。急ぎ足で続きを話そう。

世界で一番コーヒー豆をたくさん作っている国は「ブラジル」である。アメリカという大消費地のお膝元で、国をあげて良質なコーヒーの生産を目指している。国立の「クラシフィカドール」という珈琲鑑定士の学校があったり、「カップ・オブ・エクセレンス」という世界的に注目される品評会も運営している。この巨大になったブラジルのコーヒー産業も、もとはブラジル政府の政策に共感した日本の移民団が大量に移民して開墾した畑が元になっていて、この時の移民団を派遣した水野さんという方に感謝の意を表して、長い間ブラジル政府は無償で大量のコーヒー豆を日本に提供してくれていて、その時水野さんが作ったのが「カフェ・パウリスタ」で・・・なんて、話していると今日はブラジルで終わってしまう。味の話をしよう。
ブラジルに限らず、中南部のコーヒー豆はその地質を反映して、表皮部分が柔らかく内部まで火が通りやすいため、うっかり焼くと苦くなる傾向がある。それでブラジル=苦いコーヒーというイメージになるのだが、皮が薄いので雑味の少ない味で、はっきりと苦さが伝わってくるのも、こういったイメージ醸成に一役買っている。ブラジルでは、コーヒーの生産地では珍しく水を豊富に使えるので水洗式という方法で実を剥がすので、この意味でも味がすっきりしている。世界でも珍しく、手間のかかる樹上で完熟してから収穫する農法を採用している農家が多く、独特の甘さがあるため私はこの農法の農園のものだけを扱うようにしている。

中南米はアメリカという大市場に製品を供給しやすい地勢上の利点を生かした大産地が多くあるが、ブラジルについで有名なのが、「コロンビア」だ。かつて高品質といえばコロンビアという時代があった。現在は不安定な政情の影響もあり、よいコーヒーを作る農家が減ったように思うが、あの腰の座った深みのある苦いコーヒーはやはりコロンビアの豆でしか作り出せない。
少し特殊な味わいを持つのが「グァテマラ」。火山灰性の強い土壌で中南部らしい苦味の後に仄かな酸味を感じさせる。味わいが濃く、家庭でも簡単に十分強い味が引き出せるのでストレートコーヒーの中では人気のある豆だ。

他にもキューバやコスタリカなどご紹介したい豆がたくさんあるのだが、おいおいご説明していきたい。

最後にアジアのコーヒーについて書いて豆編を終わりにしようと思う。
アジアのコーヒーの代表格は何と言っても「マンデリン」だろう。インドネシアのスマトラ島で産出するコーヒーを一般にこう呼んでいる。大英帝国と東インド会社をめぐる欧州列強の思惑が入り乱れて、植民地政策を大きく左右したマンデリン誕生物語もすっごく面白いのだが、これも書いている場合ではない。残念だ。ともあれ彼らのゴタゴタのお陰で世界を代表する高品質コーヒーがアジアから生まれたわけだが、秘密主義が貫かれていて生産の実態は実はあまり詳らかになっていない。輸入元にも農園の場所さえも明らかにされていないものがあると聞いた。近年インドネシアは新興の経済大国となり産業構造もずいぶん、変わってきたのではないだろうか。年々値段は上がっているが品質は落ちてきているように感じる。水洗式と天日式のハイブリッド方式で独特の発酵臭を纏ったマンデリンの伝統を絶やしてほしくないと願っている。
スマトラ島に隣接するスラウェシ島のコーヒーが「ママサ・カロシ」だ。日本ではトアルコ・トラジャとして知られている。今やこちらの方が本家よりもマンデリンらしい味を残している。生産量が極少なので高値だが納得できる風格ある味だ。
これらインドネシアに連なる小さい島々には、良質なコーヒーを算出する国がたくさんある。特に「東ティモール」と「バリ」、そして「パプア・ニューギニア」のコーヒーはどれもバランスの良い上品なコーヒーで、アフリカの高品質コーヒーから激しさを取り去ったような優しい味がする。ジャマイカのブルーマウンテンやハワイ・コナのような手触りといえばイメージできるだろうか。
そのジャマイカのブルーマウンテンだが、まあこれは文句なく旨いコーヒーではあるが、あの値段だからそりゃそうだろうとしか言えない。コーヒーを日常の楽しみにして欲しい当店としてはちょっと扱いにくいシロモノだ。ちなみに品種はエチオピアの在来種と同じもので外見も焙煎時の振る舞いもよく似ている。
ハワイコナは、そういう意味ではコロンビアのコーヒーにそっくりな外見と振る舞いで、それよりもずっと洗練された味がするコーヒーだ。だがまあやはりこれも、そういう値段だよね、としか言えないものではある。
手頃な価格で、うまく焼けばそれ以上の味わいを引き出せる可能性が、これらのアジア小国のコーヒーたちは持っているような気がする。心して焼いてあげたい。

さて、多少(本当はかなり)心残りはあるが、駆け足で世界のコーヒーについて大きく3つのグループに分けてお話してきた。このだいたいの分類を念頭においてコーヒーの飲み比べを試してみて欲しい。自分好みの味がきっと見つけられると思う。

さて次回以降、実際のコーヒーの抽出技術について、すぐに役に立つ「コツ」を中心に書き進めていきたいと思っている。引き続きよろしくお付き合いください。

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