2014年2月3日月曜日

科学雑誌「Newton」のコーヒーに関する記事は、どこまで科学的か

僕は高校時代「理数科」という特殊学級に所属していた。
が、三角関数や微積分は、たとえ問題が解けてもその意味するところがわかっているとはいえない、と感じていた。

今月のNewtonの第一特集が「三角関数」ということで、これは買うしかないと思い、購入し、今勉強中だ。

Newton (ニュートン) 2014年 03月号 [雑誌]

ニュートンプレス (2014-01-25)
素材選び。
見事な図示化。
そして何より戦略的な論旨展開で、三角関数の概要がすっと頭に入ってくる。

僕は音楽を演奏するのも聴くのも大好きなので、世にあるすべての音が正弦波=サインカーブ、つまりsinθの変調から出来ていることを知識としては知っている。
だが、今回の特集を読んで、「振動」と「回転」、そして「回転」と「三角形」の不思議な関係に思い至り、なるほど自然界の振動が三角関数と関係が深いのも当然だ、と得心がいったのである。

永久保存版なのである。
しかし、申し上げておきたいが、この記事を読んで、高校の教科書もこのようにすればいい、と思ったとすればそれはちょっと早計で、単に図示すればわかりやすくなるというものではない。
広範な三角関数の分野を、すべてあの調子で記述することはそもそもできないし、おそらくそのようなことに取り組もうとして、現在の義務教育の教科書は実感値で30年前の5〜6倍のボリュームになってしまって、通学そのものが困難になるほどだ。
それなのに、ちっともわかりやすくなってはいないので、むしろNewtonの記事が示唆しているのは図示すればいいってもんじゃないよ、ということなのだろう。
思いつきを口にすることは厳に慎まねばならない。


ところでそのNewton3月号だが、わずか2ページだが珈琲に関する記事が出ている。
珈琲の成分分析に関する記事だ。

読み始めてすぐに躓いた。
焙煎(ばいせん)に「焙(あぶ)って煎(い)ること」と注釈がついている。
僕もこの仕事を始めてから先輩に教えていただいたことだが、このRoastに当てられた訳語は、字義的な誤訳なのである。
だから、いやしくも科学雑誌Newtonとしては、ここは習慣的な呼び名としてすっと流すべきところだった。

まず「焙る」は「火を当てる」の意で、高温にした空気で過熱するRoastに相応しくないし、もともとこの字は「ホウ」と読む字で「バイ」とは読めない。
また、「煎る」という言葉は、汁の乾くまで煮詰めるという意味で、字義的には「炒る」の字を使うべき所である。

この誤訳はどうやらカフェ・パウリスタあたりが発祥らしく、あぶる、は本来炙ると書くのが普通、いるは炒るが普通だったから、あえて捻ろうとしてこのような誤義をあててしまったのではないか。
そしてこの語を「大阪珈琲焙煎商業組合」が名前に採用して、これが政府に認証されたところで日本語として定着した、というのが定説だ。
もう定着しているだから、そのままそっと使ってくれればよかったのだ。
今さらあえて、先達の誤りを、まるでそれが正しい使い方のように注釈する必要はないだろう。


さらに読み進めていくと、コーヒー豆(生豆=きまめ)を、とある。
もうこんな基本的なことは言いたくないのだが、この場合この字は「なままめ」としか読めない。
日本語では、生の字は「き」と読んだ時は純度100%の意味で、「なま」と読んだ時は火を通していない、の意となる。
焙煎する前の豆の意味で言っているのだから、ここは「なままめ」と読むべきで、少なくとも珈琲業界の人間で、きまめなどと読んでいる人間はいない(はずだ)。


せっかく三角関数の記事に感動していたのに、まるで他の記事にも誤りがあるような気になってくるわけだが、しょせんこのような部分は「枕」に過ぎず、おおかたネットの情報でも拾い読みして書いたのであろう。

いよいよここからが本論。珈琲に含まれる化学物質が2型糖尿病の発症に抑制的に働く可能性があるという、そろそろ生活習慣病のデパートになりかけている我が身に嬉しい報告が続いた。
最近読んだ「老後の健康」という本には、アルツハイマーも脳内でのインスリンの効果不全が原因だという新しい研究について書かれていたから、これは無視できない。
この効果は、「クロロゲン酸」というコーヒー・ポリフェノールに由来するもので、肝臓で糖分をつくる作用を抑えるはたらきをもつ。

なるほど、さすが科学雑誌。
こういうふうに話を運ばなきゃね。
この話はしばらく前から業界では盛んに取り沙汰されていた話で、当時はもっぱら空腹感を抑える(空腹時の血糖値が上がらないようにするから)作用でダイエット効果があるという宣伝文句に使われていた。
そして、このクロロゲン酸、焙煎が進んでいくと減少していくので、浅煎り珈琲がダイエットに効く、という情報に変貌してひとり歩きしていったのだった・・

ふむ、まことに科学的に物事をみるのは難しいのである。
Newtonみたいな雑誌がアンアンとかと同じくらいもっと普通に買われるような世の中になれば不合理なこともずいぶん減るだろうに。


しかし当のNewtonのコーヒー記事、締めもピリッとしない。
飲み過ぎれば、カフェインの過剰摂取となり弊害があるとのまっとうな提言につづいて、だからデカフェタイプの珈琲がいいと言い、デカフェ加工の際、味に関わる他の成分も減ってしまうので、2004年に発見された天然デカフェのコーヒーノキに期待すると結んでいる。
あのね、カフェインにも味があるのよ。
それは微量にして微妙な苦味。
これが、焙煎によって生じる焦げによる苦味と立体的に組み付いて、あの珈琲の味を作っているのです。
味が問題なら天然でも人工でもデカフェじゃだめだってことでしょ。
それにそもそも、体にいいからって飲み過ぎたら毒なのはなんだって同じ。
足るを知る、ことが重要と思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿