ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリン、トミー・ボーリン、ポール・コゾフ、シド・ビシャス。
麻薬の過剰摂取(オーヴァードース)で死んだ音楽家たちだ。
反面、70年代に花開いたサイケデリック・ロックは、意識の拡張剤としてのドラッグが作った極彩色の文化であり、ビートルズのサージェント・ペパーズを筆頭に、ロック史に名を残す名盤が山ほど残されている。
しかし、そのような不自然な文化は長くは続かない。
イーグルスの残した名曲中の名曲、Hotel Californiaの出だしにある、「Warm smell of colitas」のcolitasこそがマリファナの隠語で、マリファナの煙の甘い香りの時代が終わっていく様子を彼らは描いたのである。
そして、生き残った者たちの多くは麻薬の軛を逃れ、演奏活動を続けている。
反動が出て、健康志向のロックミュージシャンが増えた風潮を、Bike & Vitamin & Rock'n'Rollなんて言ったりしてる。
日本の話しをすれば、戦時中は「ヒロポン」なんていう合法の覚醒剤が兵士に配られ、戦意高揚や疲労回復に使われた。
戦後はもちろん違法となったが、違法になったからといって簡単に根絶できるものではない。現在は、より多様な覚醒剤が裏世界に出回って、多くの芸能人が検挙されている。
そして今回は、チャゲ&ASKAのASKAが逮捕された。
こういうニュースを聞くと、裏世界の存在が実感される。
自分ごときの行動力では覚醒剤を入手するための方法すら発見できない。裏世界との接点がないからだ。
芸能界と裏世界というのはふとしたことで繋がってしまうほどの距離にあるのかもしれない。
裏世界は法治国家の規制に巣食う寄生虫である。
禁制品は、それを欲するものにカネを出させる絶好の餌となるからだ。
禁酒法時代のアメリカがどうなったかを知れば、この構造は明らかだ。
島田荘司先生の「摩天楼の怪人」でのまとめが秀逸なので、抜粋して若干補足も加え、ここに引用する。
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1910年代、ニューヨークの株への投機熱は過度にヒートアップしていた。
現在の中国やBRICsのように「世界の(いや当時は欧州の、か)工場」として機能したアメリカは、その時期どの企業の業績も大きく伸びていたからだ。
街には高等遊民があふれ、皮肉なことに彼らの富を作り出していた労働人口は年を追うごとに減っていった。
ニューヨーカーは世界の王となり、農村の貧困を尻目に、欲しいものは全て手に入れた。
そして1914年、欧州は大きな戦火への火蓋を切った。
アメリカも17年4月にドイツに宣戦布告、大戦に参加した。国中から男たちがいなくなり、ニューヨークにはますます労働人口が不足して、州政府はセントラルパークの北に大々的な居住施設群を用意して、南部から大量の黒人労働力を誘致した。
さらに1919年、信心深い婦人たちによって、男たちが戦争で国を留守にしている間に「禁酒法」がルーズヴェルトの拒否権発動にもかかわらず、議会を通過した。
ギャングたちは密造酒製造工場を各地に造り、(あのギャツビーのように)軒並み億万長者になった。彼らは、農村で食い詰めていた人たちをこの非合法の工場に吸収し、おびただしい数の犯罪者予備軍とした。
そして粗悪酒の大量摂取はおびただしい廃人を作り出した。
ギャングは豊富な資金力で一国の軍隊並みの兵器と機動力を得て、多くの警官を殺した。
そして29年、金融大恐慌が起こる。
幻想の価格は無に帰し、恐慌の業火はウォール街を発し世界中を焼きつくした。
世界の王だったニューヨーカーの多くが無一文となり、路上に放り出された。失意と悪酒に沈んだ彼らは高層ビルの乱立で陽光を失った冷たい路上で凍死した。
そしてそこはギャングの王国となった。
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これは人類史に残る悲劇のひとつだと思うが、まるで他人事でない気もする。
集団的自衛権行使への解釈改憲で、大きくなってくる戦争の足音。
非正規雇用の増大と格差。
TPPで懸念される農村の弱体化。
今の日本に起こりそうなことと、禁酒法時代のアメリカは奇妙なほど符号することが多い。
ASKAの逮捕もまた、その先触れのひとつなのだろうか。
そうでないことを心から願う。