2012年10月11日木曜日

タンノイからかすかに流れる音楽に寄り添って。

カフェジリオの内装をデザインするとき、デザイナーさんにお願いしたことがふたつ。
ケーキはヨーロッパの長い歴史が磨いてきたものであるから、全体のテイストはヨーロッパ的であって欲しいということと、僕の大好きなこのイギリスのスピーカーが似合うものにして欲しいということ。
Tannoy Greenwich

音楽に包まれて、これからの人生を生きていきたい。それが会社員を辞めてこのカフェを開くときの大きな希望だった。だから、お店に置くオーディオはそれなりに真剣に検討した。しかし音楽好きではあっても、銀座にあった勤め先に近いところに住みたくて都心の小さなマンションに住んでいたから、何百万もするオーディオを買ったって宝の持ち腐れになると思い、でも調べたら絶対欲しくなるのだからと、なるべく目をそむけて生きてきたのだ。
何を買ったらいいのかわからなかった僕は、会社員時代のオーディオ好きの先輩にメールをして教えを請うた。返信のメールには、こういうセットを買うと「わかってる」って感じのシステムになるよ、僕のアルテックのような音は出ないと思うけど、と書いてあって、教えて下さったセットも実際に見て聴いてなるほどだったのだけど、そのアルテックってどんななのー、と気になって気になって仕方なかった。

そして開店前に全国の有名喫茶店の視察の旅をしていた時、名古屋のコーヒー・カジタというお店で小さな音量で、しかし確かに響いてくる軽やかな音を奏でている小さなアルテックに出会った。それは本当にいい音だったが、先輩がなぜいい音なのに薦めてくれなかったかもよくわかった。
アルテックは映画館のサウンドシステムに使われたスピーカーなので、一般に大型機が多い。しかしその音に魅せられ自宅で使いたいという時に日本家屋はあまりに狭い。製品ラインナップに民生用のものもあるのだが、それでもデカイ。SANTANAという好適なサイズのものもあるが、なかなか状態の良い物は市場に出てこないのだ。それで自分で箱を設計して発注して、という作業をしないと本当に良い音でアルテックを鳴らすことはできないのだ。件のカジタさんのアルテックも品の良い自作箱だったのだと思う。

それでアルテックを諦めて、まあそれならJBLかなあと思ったのだが、どれを聴いても新しいモデルは僕が通常聴いている音量では、なんだかモコモコした音で、お店の人にそういうとボリュームをグイッと上げて、ほおらいい音でしょう、と言う。
そうじゃないんだけどな、と思いながらオーディオの本なんかを買い集めて読んでいたら、やたらと「五味康祐」さんという作家の名前が出てくる。日本のオーディオシーンに大きな影響を与えた人らしい。調べてみると、タンノイ・オートグラフというスピーカーをこよなく愛し、多くの機器を遍歴したあげくに、最終的にMcIntoshのC22プリアンプとMC275パワーアンプでドライブしたという。

なるほど真空管アンプってカッコいいね、でも面倒そう。それにタンノイってなんか古い感じ、などと思いながら全国の喫茶店巡りを続けていた。最後に開店する予定の札幌のお店を回り始めて、西11丁目駅にあるBasicというお店に入ってカウンターに座ると正面にかの有名なタンノイのアーデンが!中学生の時エアチェックが好きでFMレコパルのような雑誌をよく読んでいて名前だけはよく見かけた。でも音はちょっと冴えないなあ、って感じだった。ふと横を見ると見たことのない小型のブックシェルフが置いてあり、見たところタンノイの製品のようだった。バッフルがコルク貼りでカッコいい。お願いして席を移らせてもらい、そのスピーカーの横で音を聴いた。これが、素晴らしい音だったのだ。自然に胸に入り込んでくる音楽。何より上品で、人を威嚇しない低音。これだ、これが僕の求めている音だと思ってタンノイの文字の下に書かれていたモデル名と思われる文字をメモした。
G R E E N W I C H。なんて読むんだ?グリーン・ウィッチ?緑の魔女?うん、なんかカッコいいじゃないか。と思ってググると、あ、グリニッヂね、なるほど。
で当然スピーカーはとっくにディスコンで、中古を探すことになる。
ネットで探せる大きな店には在庫はないみたい。ヤフオクに登録してしばらく放っておいて、タンノイが入手できるなら五味さんみたいにMcIntoshの真空管アンプってのもいいかな、なんて思ったのが運の尽きでこっちは探せばいくらでも出物があって秋葉原の中古店でC22プリの程度のいいのは高いからかえって新しいC2200の方がいいよ。今ちょうど知り合いから預かってるのがあって44万だけど、どう?という甘い言葉にまんまと乗って買ってしまった。MC275も復刻版のデッドストックがあって、45万。先にアンプが揃ってしまった。ちょうどヤフオクでグリニッヂの出品があり、運良く落札することができたので、このセットで開店する運びとなった。

ところが、開店してみると我々のカフェジリオの商品はやはりケーキがメインで、宮の森という場所柄もあってか静かに談笑されるお客様が多い。ボリューム下げてくださらない?と言われたことも二度や三度ではない。
もともとあまり大きな音は好みでない方ではあるが、お客様にとっては音楽は隣席とお話の音が被らないようにするためのカーテンのようなものなのだと悟るのにそれほど時間が要らなかった。
そうこうしているうちに長時間点きっぱなしの真空管が悲鳴をあげ始め交換することに。全部でエントリークラスのアンプが買えてしまうような金額がかかった。ついでプリアンプのミュート・コンデンサが誤動作を起こして修理が必要になり、ここを潮時とプライベートで使っていたDENON PMA1500RIIという中級アンプをお店に、McIntoshの真空管ペアを自室に招き入れた。

これが現在のシステムでCDプレーヤはマッキンと使っていた、これもDENONのDCD-1650AE。下に見えるのがアンプとペアで使っていたこれまたDENONのSA-500というSACD機。もうお気づきでしょうが、DENONの音が好きだ。けっこうきちんと視聴してもうこれしかないと思って買ったものばかりだ。だから一応気に入ってはいるが、これを目当てにお客様がいらっしゃるようなシステムではないし、なにしろ音量が小さい。あるオーディオ・ファイルのお客様は、「あ、今日は音楽かけてないんですか」とおっしゃったくらいの音量だ。
最初の目論見とはずいぶん違ってしまったが、今はこれでよかったのではないかと思っている。タンノイから流れるかすかな音楽に寄り添って、美味しいケーキと美味しいコーヒーのお店で頑張れるところまで頑張っていこうと思う。

ところで、以前JUGEMブログサービスで書いていたCafe GIGLIO Blogには、プライベートなオーディオライフについてもずいぶんエントリをアップしたので、お店でその音楽が聴けるのかと思っていらっしゃるお客様も多かったようだ。誤解を招く運営をして誠に申し訳ありません。今回のブログサービスの引越しに合わせて音楽系のブログをGirasole Records Blogとして独立させました。こちらもぜひご贔屓に。

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