2016年4月30日土曜日

札幌の道路は怖い

カフェジリオの最も遠来の常連さんは静岡の方だが、例年、GWや夏冬の連休には欠かさず札幌観光にいらっしゃって、その度にうちにも寄ってくださる。
札幌市民としても、カフェジリオ店主としても大いに感謝申し上げる次第だ。

しかし、大変申し訳無い気持ちもある。
数年前、そのお客様が札幌市の肝いりでやっているレンタル・サイクル「えきチャリ」を利用して市内観光なさった際、なんと真駒内に向かう途中で、警察に職質をかけられたそうなのだ。

そのような職質は、通常盗難自転車を疑うために行うものだと思うが、えきチャリには遠目からでもわかるステッカーが貼ってあり、実際職質をかけてきた警官も認識をしていたそうだ。
えきチャリが盗まれたという届け出でもあったのかと思い、警官に聞いても、別にそういうわけでもないとのこと。
むう。観光都市を目指す札幌市の警察が観光客を不愉快にしてどうするのだろうか。



近所のスーパーに向かう途中、黄色から赤信号に変わる間際に停車しようと減速した車を対向車線から追い抜いて赤信号の交差点に突っ込んでいった車がいた。
舗道から見ていても身の危険を感じるほど、切迫した追い抜き行為だった。

スーパーに着くまでに前照灯が片側切れている車を2台見かけた。

ざっと7割ほどの自転車が車道を逆走していった。

Uターン禁止の上り下り4車線の幹線道路を道幅フルに使ってUターンしたタクシーがいた。

その広い道路の信号のない箇所を、覚束ない足取りで走って渡る高齢者を二人見た。

マンションの駐車場に停めるために短い距離ではあるが交差点近くの道路を逆走してあわや対向車と正面衝突か、という現場を見た。

スーパーの駐車場を通りすぎてしまって、バックで入り口まで戻ろうとした車が、後続車に追突された。

うん、今日はちょっと変なシーンに多めに行き当たった気もするが、どれもよく見るシーンではある。


東京で運転をおぼえた自分には札幌の道路はとても怖くて、他にもいろいろ理由はあるが、僕は車を手放してしまった。
交通事故死日本一も至極当然の帰結だと思う。

そしてそれを変えていく手段は、警察署の窓に安全運転のポスターを貼ることではなく、ましてや観光客の使う自転車をチェックすることでもないはずだ。


その常連さんも札幌が大好きで、長い休みの度に静岡から札幌に小旅行にいらっしゃっているのだ。
その大の札幌ファンに自信をもって「また来て下さい」と言える街にしたいよね、ぜひ。

2016年4月5日火曜日

その豆は「熟成」されているのか

今朝街を歩いていたらこんな看板に出会った。


ローソンの店頭に掲げられていた。

「ちゃんとつくったコーヒーはおいしい。」
真理ではないか。

別に他所様のコーヒーの宣伝をしてあげる必要もないが、サイトの説明がいまいちピンずれなので補足しておきたい。
実はけっこう他人事ではない。

ここでいう「ちゃんとつくった」のはローソンさんではなく、ブラジルのミナスジェライス州にあるイパネマ農園さんである。
つまり豆がいい、と言っている。

どういいのか、と言うと「熟成豆」だと言っている。
そして解説サイトでは、トゥーリャという木製貯蔵庫で15日間「熟成」させているから、この豆がうまい、と説明している。
が、すこし説明が不足しているように思う。


トゥーリャで寝かせているということは、天日乾燥をしていないということだ。
なぜ天日乾燥をしなくていいかというと、「樹上で完熟させているから」なのである。
この豆が「ちゃんとしている」ポイントはこの樹上完熟=Dry On Treeにある。

一般にコーヒー豆は、チェリーとして成熟した状態で収穫し、天日乾燥か水洗槽で実を剥ぐ。
樹上完熟の場合には、実が熟しきって完全に乾燥してしまうまで、枝についたままでいるため最後の最後まで養分が送られて、それが味に影響する。
しかしこの農法は管理が難しい上に、味覚上のメリットも決定的とはいえない差しか出てこない。
とは言え、管理が難しい故に「ちゃんと」作らなくてはいけないので、自然とバラつきのない製品が出来上がるのも事実で、昔からヨーロッパで高く評価されてきた農法だ。
つまり、まあ言ってしまえば、味のために採用したこの農法が、「ちゃんとしている」ことを要求する、というのが正確なところだ。
ややこしくてすまない。


僕がはじめてこの農法を知ったのは、日本から大規模農園を夢見てブラジルにわたった島野氏が設立した「トルマリンコーヒー」を導入したのがきっかけだった。
島野さんの農法の特徴がこのDry On Treeだったのである。

しかしその第一人者にしても広大な農園の全数を樹上完熟で作ることはできず、ほんの少量にとどまって、その分高価だったが、本当に美味しいコーヒーだった。
残念ながら今では、この農園も廃業されたと聞いた。

しかし、島野さんに樹上完熟農法を学んだ人は多くいたと聞く。
うちでもそのひとり、バウ農園の「フクダトミオ」を扱っている。


もちろんフクダトミオでもトゥーリャが使われていて、木製貯蔵庫で行われているのは、天日乾燥を行わない工程上の都合で、文字通りの熟成とは少し意味合いが違うが、樹上で完熟している効果か、味はやはり「まろやか」な印象がある。

「ちゃんとつくった」と一言でいってもこのくらいの背景がある。
大昔、缶コーヒーのCMで使われた「荒挽き、ネルドリップ」というキャッチコピーが、無条件に荒挽きの方が「こだわっている」的なイメージを撒き散らかしてしまったように、広告の言葉は不用意に使われて一人歩きした時に危険なので、今回は「熟成豆」という言葉に警鐘を鳴らしておきたかった、というのが本当のところだ。



2016年4月1日金曜日

深煎りコーヒーのカフェインは少ないか

深煎りの方がカフェインが少ないんですよね、とお客様に言われた。

結論から言えば、カフェインは、焙煎によって最も変化しにくい化学物質のひとつである。
店先で出来る話でもないので、ここで少し詳しく解説しておく。


加熱によって物質が「減少」するというのは、昇華から蒸発にかけての変化のことだが、カフェインの昇華温度は178度からで融点までいっても238度にしなくてはならない。
この熱には植物としての珈琲豆が耐えられない。

ミディアム・ロースト(浅煎り)の仕上がり190度前後から、フルシティの205度前後までの差でどれほどの昇華度の差があるか、という話である。
融点までの昇華量も数%というから、おそらく有意な差は見いだせないだろう。
その差よりも、間違いなくコーヒー豆の個体差の方が大きい。

カフェインは、コーヒーの苦味の中核を担う物質である。
焙煎度が深まるとコーヒーは苦くなるため、まず深煎りコーヒーはカフェインが増える、という噂が広まった。
ここまで読んでこられた方には、すぐお分かりになることだが、これは明らかに間違っている。
で、この間違いを正すために、むしろ加熱はカフェインを減らす傾向にあるという言説が語られはじめ、程度の問題を実証した人がいなかったので、深煎りはカフェインが少なくなる、という話になってしまったのである。

2007年に東京薬科大学の岡先生が実験をしてくださるまで、この「誤解」は続いた。
しかしこの真相は、カフェインの変化量はコーヒー豆の個体差に沈む、というわかりにくい、というかもっとはっきり言ってしまえば面白みのない結論であるため、人口に膾炙しないまま放置されている。

しかし本当の問題はそこではない。
なぜ、美味しいコーヒーを飲みたいはずの消費者が「カフェインの量」なんかを気にするのか、ということだ。
これはもちろん、近年とみに脚光を浴びているコーヒーの薬効性に鑑みてのことだろう。
コーヒー・ポリフェノール=クロロゲン酸がもたらす様々な薬効は、いちいちここでは取り上げないが、せっかくの健康飲料コーヒーに入っているという、鬼っ子の刺激物「カフェイン」をなるべく摂らないでおこうという発想なのだと思う。

健康機能があるとわかれば、よりそれを追求したくなるのが人情であって、なるべくクロロゲン酸を壊さない「浅煎り」スタイルが急速に市民権を得ているが、お客様の多くはコーヒーの好みを尋ねれば、たいてい「酸っぱいのはちょっと・・」というわけで、嫌いな味を我慢して薬効を飲むというのは本末転倒ではないだろうか。
ましてやコーヒーの味の本体であるカフェインを摂るまいとするのは。

美味しいコーヒーを毎日飲んで、ついでに健康にもいい。
これでいいのではないだろうか。
真剣に薬効を必要とするような状況ではコーヒーの味も楽しめないのだから。