先月のWIREDで特集が組まれていた。
コンデナスト・ジャパン (2014-06-10)
ブルーボトルコーヒーが世界から注目されている理由は、サンフランシスコの小さなカフェで、ひたすら焙煎の実験を繰り返し、美味しい珈琲を追求していたジェームス・フリーマンの作る珈琲が素晴らしいということはもちろんだが、それ以上に、ブライアン・ミーハンというマネージャーがアップルを始めとするテック系出身の大物投資家を口説いて出資させているというニュースバリューにある。
完璧主義者のジェームス・フリーマンは、どこかスティーブ・ジョブスを彷彿させるところがある。
珈琲がうまけりゃそれでいい、ではなく、ディテイルを研ぎ澄まして、店舗や道具選び、商品の佇まいなどをコントロールしている。
シスコの店内の様子を写真で見ているだけで、アップルストアから感じる特別なエクスペリエンスが、ここにもあると確信できる。
この特集の中で、ブルーボトルコーヒーの創業者ジェームズ・フリーマンが「なぜ市販のアイスコーヒーはこんなにまずいんだ、と思って自分でも試してみると納得行く理由がいくつも見つかった」と言っていた。
この記事ではその具体的な理由には言及していないが、思い当たるフシはある。
この季節、お客様からはアイスコーヒーに関する質問が多く寄せられるからだ。
お客様が自分でアイスコーヒーを作ってみて、うまくいかないポイントは概ね「充分冷たくならない」と「薄くなってしまう」ということに集約できるようだ。
で、この二つは、充分冷たくならないので氷を足す、そうすると薄くなる、ということだから 同じことを言っているわけだ。
ブルーボトルコーヒーでの、このアイスコーヒーへの回答は「冷水で18時間かけて抽出する」というあっけないほど正攻法の水出し珈琲(ダッチコーヒー)だった。
確かにひとつの正解であるし、パック詰めして販売するルートを持つブルーボトルコーヒーにとっての最適解でもあるのだろう。
しかし珈琲の旨味成分には湯によって抽出しなければ、溶解しない成分がある。
また、油脂分を熱によってエマルジョンすることによって味を活性化するのも珈琲の醍醐味である。
そしてこうした珈琲の味の<膨らみ>こそ経時劣化に晒されやすく、決して流通ルートに乗せられない、<調理>によって作られるべき部分なのである。
ではどうするか。
その回答もWIREDに書いてある。
(またしても!)アップルのエンジニア出身で、昨年パーフェクト・コーヒーという豆売業を起業したニール・デイが言う。
「グラインド(挽く)がコーヒーの味を一番左右するのに、挽くべきコーヒーの粒子の大きさを正確に計測する方法が未だに確立されていない」と。
ニール・デイは、熟練のロースターに挽いてもらった豆の挽目を画像解析技術で再現するシステムを開発して、この豆売り業をスタートアップした。
非常に示唆に富んだ話だと思う。
なにしろグラインドがコーヒーの味を一番左右する、というのはまったくもって真理である。
寄り道したくなる誘惑を振り払ってアイスコーヒーにこの真理を応用すると、氷を使えば薄くなってしまうのだから濃い味のコーヒーをあらかじめ作ればいい、ということになり、そして濃い味は、挽目を細かくすれば実現できるのである。
ここで問題は、よく家庭で使われている手回しミルでは充分な細かさに挽くのに時間と労力がかかりすぎるということだ。
機械式でも、スイッチを押している間カット刃が回り続けるタイプのものは、挽目を再現するのが難しい。
しかし安心してほしい。
ここは日本で、日本にはKalitaがあるのだ。
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このナイスカットミルという機械には、挽目を設定するダイアルがついている。これを一番細かい目「1」にセットしてスイッチを入れれば、いつでもアイスコーヒー用の粉が出来上がる。
この細かい挽目の粉20~25g程度(二人分)をペーパードリップにセットして、湯を注ぎ一人分の量のコーヒーを抽出すればいい。
それをすこし大きめのサーバー(4人用のものがいい)に氷を満たし、抽出した液を入れ、蓋をして零れないように振れば、アイスコーヒーの出来上がり。
氷を入れたグラスに注いで、あとは飲むだけ。
ついでに言うとミルのダイアルを「3.5」にセットすれば、いつだって最も適切なペーパードリップ用の粉が出来上がる。
ニール・デイの言っていることは本当で、ミルによって出来上がる粉の「揃い具合」がずいぶん違っていて、だからこそ、彼は画像解析技術なんかを使ってハイテクな粉砕をするわけだ。でも日本ではこのKalita社のナイスカットミルという手頃な価格のジャパンメイドの機械がその熟練の粉を作ってくれてしまう。家庭で充分作れてしまうのだ。
ニール・デイのパーフェクト・コーヒーでは、「世界中の家庭に挽いた粉を売る」というビジネス・モデルを実現するために、挽いてしまえば急速に酸化する粉を無酸素でパッキングするシステムを開発したそうだが、酸化しなくても、焙煎によって焼成したコーヒー豆の化学成分は6日間でその60%が失われる。 そして失われてしまわなければ炭酸ガスの発生は止まらず、無酸素のパッキングも出来ない。
残念ながらその方法ではいわばコーヒーとしては「死んだ」ものを流通させることになってしまう。
本来のコーヒーの味を引き出すもっとも重要なポイントは、「焙煎鮮度の高い豆を入手して、飲む直前に挽く」ということなのである。
修行時代に世界で最も定評のあるスイスのディッティング社の20万円以上もするミルを使わせてもらっていた。
確かにそのミルでなければ届かない味があるとは思うけど、だからこそ1万5千円ちょっとのKalitaがここまでの味を出すことが信じられないぐらい凄いことじゃないか、とかなり真剣に思っている。
コーヒーを入れるという行為を<調理>としてとらえた時に、メイド・イン・ジャパンのこの機械は欠くことのできない道具だと思う。
そういえば、ブルーボトルコーヒーは店舗ではペーパードリップで一杯ずつ落とすスタイルだが、フィルタはBONMACというKalitaのコピーを使っている。もちろん日本製だ。
ブルーボトルとともにサード・ウェイブの一翼を担う、サイトグラス・コーヒーでは、ハリオのV60の耐熱ガラスバージョンのものを使っている。
ハリオ
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ハリオのV60は、コーノ式のドリッパーの生産を共同で行ったことから出てきた製品だが、この両者は日本の理詰めの道具作りのひとつの到達点と言えるだろう。
Kalita社のミルとあわせて、日本は、おそらく家で美味しい珈琲を飲むための環境に最も恵まれた国であるといえるのではないだろうか。