2017年6月28日水曜日

焙煎のこと

美味しいコーヒーを淹れるための第一歩は、良い豆を手に入れることに尽きる。
では「良い豆」とは何か。

鮮度の問題は大きい。
焙煎によって作られた香味成分は日を追うにつれて分解していってしまうからで、一週間も経てば半分以上が無くなってしまう。
しかし、ということは、そもそもその香味成分が上手く焙煎によって焼成されていなければ、最初から話にならないというだ。

というわけで、良い豆のもっとも重要な要件は上手に焙煎された豆である、とここでは定義してしまおう。

何が上手な焙煎かということに関しては、ここまでの論展開で明らかなように、豆が持つ香味成分を最大限に焼成できていること、と決まる。

調理の基本に照らせば、豆の加熱の肝は、ひとつの鍋(焙煎の場合には釜)に加える総熱量と、一つ一つの豆の中心部まで熱が届くまでのスピードが、どうバランスしているか、ということになる。
このバランスを取るために媒介としての液体(水であったり、スープだったり)の量や浸透性を調整したり、鍋の形状や素材などを工夫してきたのが調理の歴史である。

コーヒー豆の場合はシンプルで、そもそも水に入れるわけにはいかないのだから、そのまま加熱するしかない。
調整のための媒介を介在させられない、というところがコーヒー豆の焙煎が難しいところなのだ。

またコーヒー豆はとても硬いので、火が通りにくい。全体の熱量をかなり高くする必要があるのだ。
だから普通に鍋で加熱でもしようものなら、表面が焦げて芯が生のまま、という豆が出来上がる。
そのために回転ドラムの中で豆を泳がせ、空気で加熱するという焙煎機の原理が生まれたわけだ。


普通に考えれば、与えるべき熱量と豆の中心まで熱が入るスピードを調整するためには火力を調整すればいい、ということになるだろうが、それもそう簡単にはいかない事情がある。
必要な熱量を与えるのに、時間を長く取る、つまり弱火に頼る、ということがコーヒー豆の焙煎では出来ないのだ。
それは800種類もの香味成分を焼成させる焙煎では、デンプンをアルファ化するような、火が通ればいいという単純さを適用できないからだ。
どうしても一定の強い火力で炙る過程が必要になる。


くどくどと書いてきたわりに結論がシンプルでまったく恐縮なのだが、つまり、焙煎はまとまった量でやらないと美味しくならないのである。

だからといって大量に焙煎すると、鮮度が落ちて、スカスカな味のコーヒーを売ることになってしまう。
だから芯残りのない焙煎のできる最少量を試行錯誤で探って日々焙煎しているのです。
今のところ、9種類の豆をそれぞれ1キロずつ焙煎していく、というのが味と販売量のバランス点になっているようです。