2016年5月14日土曜日

ドリップバッグを淹れてみる

いつもお世話になりっぱなしの恩人から、不意に小包が届いた。
封を切ってみると、ドリップバッグが入っていた。
最近お気に入りのカフェのもので、研究材料にお使いください、と書いてあった。


せっかくの機会なので、ドリップバッグについて考察してみたい。
抽出原理を考えると、ドリップ(透過法)の名がついているが、明らかに浸漬法に分類されるものだ。
このドリップバッグの販売元は、そのことがよくわかっているようで、「2分間漬け込んでください」の注意書きにわざわざピンクのマーカーを引いてあった。

通常フレンチプレスタイプの浸漬法は4分間を標準とするが、ドリップバックは注湯の方法だけがドリップ式で、これに2分かかるため、浸漬時間を2分としたのだろう。
合理的だ。

内容量は8gとある。
こちらも標準的な浸漬法の一杯分の分量。基本に忠実だ。
さてこの「一杯分」という言葉が、ここでは最も注意を要する。
コーヒーの世界ではあくまでも一杯分は120ccが基本。
ドリップバッグは直接カップに抽出するため、120ccのカップを用意する必要がある。




これが我が家で使っている120CCカップ。
ジノリのホテルラインと呼ばれるもので、業務用に作られていて一般には入手しにくいものだが、シンプルでとてもいい。

これにセットしてみる。




蒸らしの指示があるが、KONO式の抽出に慣れている方はその限りではないだろう。慣れたドリップの方法そのままに注湯すればいいと思う。

静かにお湯を入れて、しばらく待つ。
最後にドリップバッグを抜くわけだから、少し多いかなと思うくらいまでお湯をいれておく。


2分経ったら出来上がり。

このコーヒーには、浸漬法っぽさはない。
浸漬法を特徴付ける油っぽさはバッグの紙に吸収されるし、もちろん微粉もないのだから当然だ。
個人的にはやはり、たっぷり粉を使って、重力の力も借りて灰汁の混入を排除する透過法の味が好きだが、その透明感にはやや欠けると言わざるを得ないが、それがこの手軽さの代償ということなのだろう。


2016年5月9日月曜日

アイスのカフェ・オ・レはございません

本当に時々だが、カフェ・オ・レ、アイスで。と頼まれることがある。
普通の喫茶店では普通にあるメニューなんだと思うが、当店にはございません。

カフェ・オ・レを冷たくすることは出来ないからだ。
なんとなれば、一度温めた牛乳をまたアイスで急速に冷やすことで、とんでもなく不味い乳脂肪のカタマリを作ることになってしまうから。

だから普通、濃く作ったコーヒー液を冷たいままの牛乳に混ぜることになる。
これってアイスコーヒーに牛乳入れただけでしょ。

字義に反したネーミングで呼ばれる気持ち悪さもさることながら、一度濃く作ったコーヒー液を氷で(つまり薄める方向で)冷やして、それをほぼ等量の牛乳と混ぜて飲料を作るという、間に合わせの対症療法の気持ち悪さが、それをメニューに載せることを思いとどまらせる。

正しいか、正しくないかというのではなく、生理的に許せるかどうか、という問題なのかもしれない。


1990年代に「シュルツの」(ココ重要)スターバックスが、産業としての歪なコーヒーフレーバー飲料を世界に広めるまで、冷たいコーヒーは比較的合理的なカタチで世界中で提供されてきた。

ラテンヨーロッパ圏ではエスプレッソの温かいカップに氷入りのグラスが一緒に提供される。
ゲルマン系では、温かいコーヒーの上にアイスクリームを載せて供される。
アメリカでは普通のホットコーヒーを氷入りグラスに入れて作る。

材料としての冷たいコーヒー液が生産されるようになって、飲料の世界はヴァラエティは得たのかもしれない。
しかし引き換えに失ったものも大きいと思う。