「お客さまの好みにブレンドをお作りします。どんな味がいいですか」
と言われた。
その設定は想定外だったので慌てたが、すぐに頭に浮かんだのは、“コーヒーの神様”襟立氏のご子息が山の手で営んでおられた「リヒト」で、すべてのコーヒー豆のプライスタグに書かれていた、
酸っぱくも苦くもありませんという言葉だった。
しかしその当のリヒト店主が、客が少しでもコーヒー通ぶったことを言うと、とたんに不機嫌になったことも同時に思い出し、「あんまり苦くないほうがいいんですが、酸っぱいっていうのもちょっと苦手で・・」と、しどろもどろな感じでお願いしてみた。
まあじゃあ、バランス重視って感じですかね、と言って作ってくださったブレンドはかなり強い酸味のコーヒーだった。
味覚という官能評価は人によってだいぶ違う。
そして極めて言葉にしにくいのがコーヒーの味だ。
だからお客さまのお好みを伺って、それに応える味を作るのは実に難しい。
だから、自分が美味しいと思う味を、その店のメートル原器にして、そこを起点に味のバリエーションを作るのが王道だ、と最後に師事したお師匠さんに教わった。
それに、僕の10年の経験から言って、そう簡単にブレンドは出来ない。
まず実現したい味のイメージがなければ、なんのためにブレンドを作るのかわからない。
と言ったって、実現したい味のイメージなんて考えて浮かぶもんじゃないし、カタログに書いてあるセールス・コピーの一般論も、もちろんあてにならない。
自分で経験したことしか信じられないのがコーヒーの世界だと思う。
コーヒーの勉強をはじめたばかりの頃、頭でっかちの僕はコーヒーの起源の地であるエチオピア産の豆を飲み比べて歩いた。
酸っぱいお店が多かったが、門前仲町のピコというお店のエチオピアはとても柔らかくて綺麗な味だった。
ピコのマスターがやっていたコーヒー教室に参加して、KONO式の器具に出会い、あまりの味の違いにびっくりして、KONOコーヒー塾の門を叩いた。
そこで社長の淹れてくれたエチオピアの味ときたら!
そうか、これが酸っぱいとは違うコーヒーの酸味か、と気がついたが、これやっぱり結構な経験を積まないと気付けない味だな、とも思った。
だから自分の最初のブレンドは、はじめて飲んだ人にもわかる、「酸味の誤解」を解くコーヒーを作りたい、と思ったのだ。
試行錯誤、紆余曲折の結果、途中段階で開業し、4年目にしてやっと今のカタチの「ジリオブレンド」が完成した。
今日も朝から、そのブレンドの構成豆を焙煎した。
ゲイシャ種なんて珍しいですね、とか、ここのグァテマラは旨いね、とか、もちろんうれしくないことはないけれど、豆の選定から、焙煎度の吟味からやって、頭にあるコーヒーのイメージを作ったブレンドを、常連さんから「お宅のコーヒー」と言われるのが、コーヒー屋としてなにより嬉しい。
煎じ詰めて言えば、コーヒー屋の仕事の要衝は旨い“ブレンド”を作ることにあるんじゃないだろうか
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