最近お客さまに、白いペーパーは漂白剤の匂いが気になるので無漂白のもの(みさらし)の方がいいですよね?と訊かれた。
そう、世の中には白いペーパーフィルターと茶色のペーパーフィルターが存在する。
一般的に同じブランドのものだと無漂白の方が少し高価なので、そちらのほうがいい、という先入観を産むのだろうか。
なぜ無漂白のほうが高価なのか。
それは、木材からリグニンという物質を取り去るために、漂白剤ではなく、大量の水で洗い流すためコストが嵩むからだという。
そうしてなお、取りきれず残ったリグニンの色があの「茶色」なのである。
まず今回の話の起点となった「匂い」についてだが、その意味では無漂白ペーパーフィルターにこそ「木」の匂いが残っている。
漂白されたペーパーフィルターに「匂い」がありそうな気がするのは、おそらく「漂白」という名称から次亜塩素酸ナトリウムの匂いを連想しているのかもしれない。
しかし現在、(ペーパーフィルターに限らず)紙を塩素漂白で白くしているところはほとんどないのだ。
漂白の過程で生成される有機塩素化合物がダイオキシンの原因物質となるため、世界的に酸素系漂白法への転換が進んでいるのである。
ということは、むしろ匂いが気になるのは無漂白パルプから作られたものではないだろうか。
件のお客さまは、匂いが気になるので白いペーパーを使う時には抽出前にお湯をかけたほうがいいか、と重ねて訊いたが、むしろ無漂白のペーパーをお使いのかたは、使用前にお湯をかけてみてほしい。
ものによっては、溶け出したリグニンが混じった茶色いお湯が出てくるはずだ。
パルプの酸素漂白への転換がはじまったのは、比較的最近のことで、1998年頃だそうだ。
それ以前の時期に、健康志向の高まりに合わせて無漂白ペーパーフィルターが生まれた。
すでにほぼ酸素漂白への転換が終わった今もこれが残っているのは、ひとえに「味が違う」からである。
無漂白パルプから生まれる紙はリグニンが残っているため丈夫で、重い物を入れる袋などに使われる。
残存リグニンから出るかすかな木の香りと、緊密な紙質が抽出に影響を与えるのだろう。
その差は微々たるものかもしれないが、微々たる違いを追い込んでこその趣味とも言える。
しかし木を見て森を見ず、になっては面倒な手数をかけてコーヒーを淹れる甲斐がない。
焙煎によって生じた多くの香味成分の複雑なバランスを、なるべく純粋な形で味わうならやはり、ペーパーは漂白されたペーパーのほうがいいと思う。
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