前述したようにいろんな入れ方があるが、手始めにオススメした「コーノ式」を取り上げる。
会社を辞めてコーヒー修行をはじめて最初に本格的な指導を受けたのが、珈琲サイフォン株式会社の河野社長だった。コーノ式ドリッパーは現在の河野社長のお父様が作ったもので、社長は子供の頃から家でコーノ式ドリッパーを使って珈琲を入れていたそうだ。なにしろキャリアが違う。社長が珈琲を入れる手つきはまるで魔法かなにかを見ているようで実に美しい。出来上がったコーヒーも夢のように美味しい。しかし、珈琲サイフォン社では喫茶店は経営していないので、コーノ珈琲塾に入塾した者でないと、このおそらく日本で一番美味いコーヒーは飲めない。なんと勿体なくも貴重な体験であったことか。そしてこの社長の入れ方は特殊すぎて誰にも真似ができない。みんな真似しようとして失敗するが、社長はそれを見て「どうしてそうなっちゃうのかなあ」とおっしゃるだけ。たぶん自身には自然すぎて本当にどうして出来ないのかわからないのだ。
そこでは完全に入れ方をマスター出来なかった私は、そのドリッパーを作った先代に師事したという方が主宰するコーヒー研究会に入った。その方は見事にコーノ式の手順を言語化しており予想通り独自の手順を加えて補強していた。やっと再現可能な手順に出会ったので、これを一ヶ月ほど反復訓練して私の抽出法とした。今日からお話するのはこの手順である。
まず珈琲豆を挽こう。
もちろんお店で挽いてもらったっていいのだが、豆は挽くと表面積が800倍に増加する。つまり800倍のスピードで酸化するということだ。豆のままの方が断然保存性が高いのだ。酸化すると味が悪くなるのはもちろんだが、湯を注いだ時の炭酸ガスの発生量がガクッと落ちて、ガスで膨らんだ粉の中をお湯を回して抽出することが出来なくなり不利なのだ。
ミルを買うというのは、美味しい珈琲を飲むための投資としてはかなりプライオリティが高いと私は思う。
その際はいろいろ考えずに「カリタ・ナイスカット・ミル」という電動ミルを買おう。操作が簡便であること、性能、メンテナンス・フリーである点、どの点も申し分ない。一生モノであることを考えると価格も高くないと思う。なにしろ日常の道具なのだ。使い続けられるものを買うのが最も安いはずだ。
それにこの製品は、皆さんの粉に対しての最大の疑問、「どのくらいの挽目がいいの」に明快な回答をくれる。手動のミルや、臼の中で羽が回るようなタイプの電動ミルはどのくらいの時間刃を回すのかで細かさが決まるが、ナイスカットミルでは自動でダイヤルで指定した挽目にしてくれるのだ。
挽目で味はかなり変わる。だからこそ、先達が長い時間をかけて探り当てた適切な挽目である「中挽き」からきちんとした味を引き出す技術を習得すべきで最初から、ちょっと細挽きとかちょっと荒挽きとか、挽目を変えることで好みの味を探るのはやめておいた方がいいと思う。
これが中挽きの粉だ。
さて、珈琲に関心の強い方はだいたい当店にいらっしゃると抽出手順が見えるカウンターにお座りになって手元をじっと見ておられる。そして多くの方は最初にこう質問されるのだ。
「一人分は何グラムですか?」と。
まず、ペーパードリップでは「一人分」で入れてはいけない、と申し上げておきたい。透過法は、重力の力を使って味を引き出す。だから縦方向の「長さ」が必要なのである。特に透過の合理性を追求して円錐を採用したコーノ式ではとくにその傾向が顕著で、一人分の粉では十分な味が出てくれない。二人分から入れましょう。
で、何グラムかだが、これは「器具の指示に従ってください」が答え。
写真を見て欲しい。
代表的な珈琲器具に付属してくるスクープ(はい、そういう名前なのです)だが、それぞれグラム数が違う。手元になかったがメリタ式とフレンチプレス(浸漬法)は7g、カリタは10g、コーノとハリオは12gとなっている。
と、お答えすると、うちの器具にはスクープっていうのは付いてなかったなあ、というお客様が驚くほど多い。そういう志の低い器具は買い換えるべきではないか、と申し上げないが思ってしまう。
粉の用意と並行してお湯を沸かす。
必要な温度は90度以上で、沸騰するほど高温でないほうがいいことはすでに書いた。大事なことなので繰り返すが、油脂を加熱して乳化現象を起こし味の活性を図る手法なのだ。ボンゴレ・ビアンコの豊かなあさりの風味を引き出す手法と同じ。私は開店して6年目に至る現在でも温度計を使っている。ご家庭ではやかんの底からでてくる泡が走るくらいのスピードでタタタタと出てきたら90度と覚えておくといいだろう。
むろん温度計を使えるならそれに越したことはない。
さてそれをコーヒーポットに移す。
この時、何人分入れる場合でもポットの八分目までお湯を満たして欲しい。ポットを大きく傾けて湯を注ぐと水量のコントロールが難しいからだ。後述するが、お湯はポタポタと雫のカタチで注がなければならないから。
と、準備が整ったところで、以下次回とさせていただきたい。
いよいよ明日からフィルタに湯を注いでいきます。
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