2014年4月29日火曜日

だからマーロウはかっこいい

NHKでやっているドラマ「ロング・グッドバイ」いいですね。
ロバート・アルトマンが撮った映画版もよかったけど、何よりも、換骨奪胎に<意識的>な脚本が本当に素晴らしい。

もちろんマーロウを自分なりに噛み砕いて表現したアルトマン映画主演のエリオット・グールドの演技は、それ自体がかっこよくて素晴らしかったわけだけど、アメリカ人がマーロウ名で演技しているわけだから、猫なんか可愛がらせたぐらいでは所詮変奏曲の域を出ない。

その点、NHKドラマの場合は、どうしたって日本に持ってきた時点で、もうだってマーロウだもんと言い張るわけにはいかないから、その探偵の奇異な行動規範に一定の説明が要る。
ことに本作の場合、テリーとマーロウなら「なぜか気が合う」で済むわけだが、増沢と原田の場合、そうはいかない。
だから脚本はここを丁寧に描写し、結果テリー(原田)の人物像はもしかしたら原作以上に深まったかもしれない。

チャンドラーの描いたマーロウってのは、あくまでも当時の西海岸のスポイルされた空気の中で成立した、いわば<浮世離れした>人物像だったから、翻訳が村上春樹になっただけで人格が変わってしまうような繊細さがあった。
それゆえに、原作と映画の180度違うラストが成立したとも言える。ではNHK版のラストはどうなるか。嫌が上にも期待が高まる。

そんな素晴らしい脚本にも、珈琲屋としてはちょっと残念なところがあった。
マーロウはコーヒーを愛している。
だから、敵が事務所に踏み込んできて銃を向けていても、「コーヒーを飲むか?」と訊く。そしておもむろに豆を挽く。
で、我らが浅野マーロウもコーヒーを挽き、サイフォンで淹れる。

ところが、浅野マーロウがコーヒーにこだわりのある男だと示すファースト・シーンでの淹れ方がおかしい。
最初に湯を沸かすフラスコに珈琲の粉を入れてしまっている。これではトルココーヒーだ。もちろん演出上のわかりやすさから作られたシーンなのだろう。
せっかくだから、このシーンを補うため、サイフォンでの珈琲抽出をこのページで再現しておこう。


まずフラスコに水をいれます。この時、絶対にフラスコの外側が水で濡れていないことを確認して下さい。水滴なんかがついていると加熱した時フラスコが割れます。これ、実はサイフォンを使う時一番重要なことです。


次に上部にセットする漏斗に珈琲の粉を入れます。このKONOの器具はネルの代わりに扱いやすいペーパーを使っていますので挽目はドリップと同じ中細でいいのです。問題は量です。サイフォンは浸漬法で、抽出に使った液はすべてカップに出ますから、粉は少なめにしないといけない。一人分7gくらいでいいです。



これが、ペーパー仕様のフィルターです。ネルは使用後、水につけて冷蔵庫で保存しなくてはなりません。生活の中で現実的に使うにはペーパー式がいいと思います。


さてやっとアルコールランプに着火。ポコポコと底から泡が出てきたら漏斗を挿してください。


挿すとすぐに湯が上に上がってきてコーヒーの粉を浸し始めます。湯がコーヒー層の真ん中を割って山が崩れたら・・


このように竹べらを「縦に」入れて混ぜます。
その時間40秒。
混ぜることと、その時間が正確に40秒であることが、二番目に大切なポイントです。


40秒たって、アルコールランプの火を消すと、抽出された液がフラスコに落ちてきます。
その時、良質の豆を使って適切な時間抽出された液には、このような金色の泡がたっているはずです。


漏斗を抜いて完成です。
タオルでフラスコをしっかり押さえて、漏斗を前後に揺らして外してください。


ね、えらく手間のかかるやり方でしょう。
銃をつきつけられてできるこっちゃないですよ。
だから、やっぱりマーロウはかっこいいんですよね。

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