2014年4月8日火曜日

本屋さんが一番売りたい本と、僕が買いたい本

エリアフリー化を果たしたradikoが面白くていろんなエリアのFM局をはしごするのが最近の夜の楽しみだが、昨夜はTOKYO FMを聴いていた。

「タイムライン」という番組で、作家の海堂尊さんが、本屋大賞のキャッチコピーが気に入らないと言っていた。
「本屋さんが、一番売りたい本」なんて正面切って言われると、他の本は売りたくないのか、と思い、その無神経なコピーに不愉快な気分になると。

もちろん、一番売りたいのがこれだ、と言ったからといって他のものを売りたくないということにはならない。
ならないけど、「大賞」と言ってるからには本(と同時にその作者)を表彰するわけだから、本屋さんが「売りたい」ほど好きだ、または良書だということなんだろう。
何かを好きだっていう気持ちの程度を修辞するのに「売りたい」なんて言葉を、しかも本を売るのが生業の人たちが言っちゃうっていうのはちょっと身も蓋もなさすぎるんじゃないの、とは僕も思う。

なんでラジオでこんな話題なのかなあ、と思ったら今日が今年の本屋大賞の発表日だったようだ。(「のぼうの城」の和田竜さんが書かれた「村上海賊の娘」が受賞したそうです)

僕は、かねてから本屋大賞の本のセレクトと作家の偏りについては違和感のようなものを感じることが多かった。
それでもノミネート10作品のうち毎年2〜3冊くらいは読んでいたし、とてもいい作品もあった。で、年を追うごとに、いいと思う作品が下位になっていって、ついに今年のノミネート作品リストには一冊も読了本が入らなかった。


本屋大賞は「書店員が選ぶ」と銘打たれている。
だから僕はてっきり、本好きが嵩じて書店員にまでなってしまったマニアな読書家が、そのとっつきにくさから隠れた名作に甘んじている逸品を、読解のヒントとともにご紹介してくれる賞なんだと思っていた。

帯につられて買った2011年の大賞受賞作「謎解きはディナーのあとで」を読んで、自分の解釈が決定的に間違っていたことを知った。
こっちか、と。

つまり本屋大賞というのは、これならどんな人でも間違いなく楽しめますよ、という大衆性の高い作品を紹介して、減り続ける読書人の間口を広げるためのイベントなのだろう。
もちろん多くの人にアピールしうる作品を書くのは簡単なことではない。
それは賞賛すべき才能だ。

だからそれはそれで素晴らしいことだと思う。
ましてや大学生の4割以上がまったく読書をしないという時代だ。このような活動には重要な意味があると思う。

それに書店の経営は難しい、と聞く。
大学生の頃、近所の小さな書店の店主は、雑誌と赤川次郎の売上で他の本の仕入れをするんだと言って、笑っていた。
その店主は、店のサイズに不釣り合いなほど徳間文庫のコーナーを広くとっていて、おかげでその頃の徳間文庫が積極的に収蔵していた日本SFの傑作群に出会うことができたのだ。

そのような店に、当時の赤川次郎のようなキラーコンテンツの供給が止まったらどうなるだろう。
たちまち商売は立ちいかなくなり、僕たちは本と出会う場所を失うことになる。

だから書店の収益性を担保する、話題の新刊を本屋さん自らが作っていくムーブメントを否定することはできないと思う。


しかし、問題もある。そのような活動も行き過ぎれば、結果的に愛書家を書店から遠ざけることになるという点だ。

以前は本屋で、本に「呼ばれる」としかいいようのない経験をよくした。
平台に並んだその本から目が離せない。
めくってみる前から面白いことを確信している。
自分に読まれるべく、そこで待っていた本。
実際、そのようにして出会った本は、生涯忘れられない印象を今も残している。

同じような経験のある人はたくさんいるのではないだろうか。
しかし、本が心に呼びかける声はあまりにも小さく、デリケートだ。

一方、ナントカ賞受賞という勲章はピカピカ光って目に眩しい。
大声で、僕を買ってよ、と叫んでいる。

だから最近、書店では何かの賞を受賞したか、映画の原作になったような本しか目に入らない。
そのような硬直した平台をみるたび、本屋さんが一番売りたい本は、僕が一番買いたい本ではなくなったんだな、と寂しい気分になったりする。

反面、オンラインの書店では「知っている本しか買えない」という弱点を完全に克服して、読書傾向から的確な本をリコメンドできるようなシステムを備えている。
リアル書店のように「本の声を聴く」というようなミラクルはもちろん望めないが、強力な検索機能と圧倒的な在庫量は、我々愛書家の新しい福音になりつつある。


本をたくさん買うのは、ベストセラーだけを買う人ではなく、愛書家である。
実用書の類には目もくれず、魅力的な小説を漁り続ける愛書家たちには「本屋大賞」にリストされる作品は少し物足りないことが多い。
だからそれが「一番売りたい本である」と公言する場所に足を運ぶ機会が少なくなることはある程度やむを得ないような気もする。

もはや愛書家のオンライン書店への流れと、その先にある電子書籍のメインストリーム化は止められないのかもしれない。
書店に本の素晴らしさを教わってきた世代としては寂しいかぎりだが、これも時代の変化ということなのだろう。

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