本日3月21日で、カフェジリオも8周年となりました。
「平凡」に生きていくためにこそ最大の情熱を注ぐ、という信条に鑑みて、特に大きな改装はしておりませんので、見た目は開店した当時のままですが、商品の中にはかつて人気のあったものでも今はお出しできなくなってしまったものがあります。
例えば「クレームダンジュ」というフロマージュブランとダブルクリームのムースは、材料の一部が生産されなくなり、他のメーカーのものでは味を再現できないため泣く泣くラインナップから落としました。
乳製品は同じメーカーでも生産工場で味が違ってしまうデリケートな食材です。
生クリームもちょっと特殊なものを使っていたのですが、工場が変わったとたん味が大きく変化して、これを他のメーカーのものとブレンドして調整するのに大変苦労しました。
コーヒーでも、マラウイという小国のゲイシャ種がとても評判が良かったのですが、世界的なゲイシャブームでなかなか豆が回ってこなくなり扱いを諦めました。
人気のあったトルマリンというブラジルのブランドも農園主の継ぎ手がいなくて廃業となり、今はお弟子さんが作った別の農園のものを使っています。
最近では固定ファンの多いカシスココというカシスとココナッツのムースに使われているカシスピューレが、農薬の問題で日本に入ってこなくなり、しばらくお作りできない状況にあります。
世界は刻一刻と変化していて、そこに生きる僕らも実に様々な事情で変化を迫られるのです。
しかし、不思議なもので扱う食材が変わっても、同じ人が作っていればそこにはなにか共通した「味わい」のようなものが感じられるものです。
その頑丈な個性は、間違いなく一朝一夕で作られたものではない。
きっと個人の人生すら超えて、技術を教えてくれた先生の生き様みたいなものまで含めて表現されるものなのではないでしょうか。
先日、パティシエである家内が菓子修行をした、三軒茶屋のHisamoto'sという老舗洋菓子店(現在は閉店)の創業者、久本晋平氏の自伝を偶然見つけて入手しました。
奉公先でカステラの技術を習い覚えて、養家で新しい洋菓子を作ろうとするも保守的な店主(養父)に受け入れられず、夢を叶えるためこっそり家出して博多に逃れた晋平氏は、洋菓子職人を求めていた店の門を叩き、ではシュークリームを作ってみよ、と言われ苦心惨憺して扱ったことのない最新の電気釜を使って見事なシュークリームを作り店主に認められたことがその職人人生の原点であったようです。
家内の菓子作りの原点も子供時代に食べたカスタードクリームにあります。
紆余曲折はあるでしょうが、職人さんたちの菓子への思いが折り重なって、今この店のショーケースに並んでいるシュークリームがあるのだなあ、と思うと深く感じ入るものがあります。
この変わり続ける世界で、僕らが守っていかなくてはならないのは、こんなふうに一つの菓子に積み上げられてきた人の気持ちそのものではないか、と思うのです。
9年目に入った今年もその気持ちを忘れずにがんばってまいります。
変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。
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