2016年3月8日火曜日

コーヒーの「名前」についての雑談

コーヒーのわかりにくさ、というのは飲料の素材となる「豆」の名称にも表れている。

「モカ」は、大英帝国が、東インド会社を置いたイエメンのモカ港からイエメン産(マタリなど)とエチオピア産(ハラーなど)の豆を輸出していたことからその名がついた。
現在、すでにモカ港自体がなく、農園単位でコーヒー豆が取引される実情に合わないため 「モカ」の名で商品が売られることはなくなり、その後列強が世界中に拓いた植民地で作られるコーヒー豆の多くは、「国名」+「地域名または農園名」で呼ばれるようになった。

ちなみにカフェジリオでは、モカに相当する豆は、エチオピア・イルガチェフェというのを扱っている。これはイルガチェフェ村の産という意味だ。

しかし困ったことに、飲料としてのコーヒーの味を決定づける「焙煎度」にも国がらみの言い方が存在する。
フレンチやジャーマン、イタリアンといった具合で、フレンチとジャーマンは同じ焙煎度でフルシティ・ローストの少し上、イタリアンローストはエスプレッソ用でさらに深い。

9年前にこの店を開いたとき、もうスペシャルティ・コーヒーもずいぶん浸透した頃だと思っていたが、実際にはそれほどではなく、よくお客さまに「あら、エチオピアやタンザニアはあるのにジャーマンはないのね。狸小路の○○という店のジャーマンが好きなのに」などと言われたものだ。

さらに地域(部族)名がそのまま通称になっているマンデリン(インドネシア・スマトラ島)やブルーマウンテン(ジャマイカ) のようなものもあって全部が全部国の名前で売られているわけでもなく、とは言え、戦後すぐにコーヒーの世界に入ったレジェンドっぽい人なんかは、マンデリンなんて言い方は駄目でスマトラ・アラビカが正しいと言い募ったりするが、それも一般的とは言えない。

最近では、パナマのオークションでエスメラルダ農園のゲイシャ種が史上最高値を付けて話題になり、原種に近い古い栽培種の「ゲイシャ」の名がついたコーヒー豆が市場を席巻したこともあった。

さらにさらに、ジャコウネコがコーヒーの実を食べた糞の中から未消化の種を取り出して焙煎する「コピ・ルアック」(コピ=コーヒー、ルアック=ジャコウネコ)というのまである。



もうひとつ困るのは、所謂「アメリカン・コーヒー」というやつで、はじめて当店においでになるお客様で、メニューを見ずに「あ、アメリカンね」という方は今でも一定数いらっしゃる。
この場合のアメリカンは「薄いコーヒー」の意味だろうが、由来から言えば、アメリカンというのは焙煎度の浅いコーヒーなわけで、やっかいなことにダイエットなどに効果があるというホントかウソかわからんような話を真に受けて浅煎りコーヒーを探している人なんかもいるもんだから、困ってしまう。
ま、可溶成分が充分析出されない浅煎りコーヒーを、うちは置いていないので、確認せずに薄めたコーヒーを出すわけだが。

そこそこコーヒーに詳しい人だと、そういうことを知っていてアメリカン・コーヒーが日本にしかないという皮肉を話題にしたりするが、実はイタリアのバールなんかで「カフェ・アメリカーノ」とオーダーすると、エスプレッソにお湯の入ったポットがついてきたりする。
アメリカ製が「薄い」と思っているのはわりと世界の共通認識なのかもしれない。



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