2017年4月10日月曜日

喫茶店なのか、カフェなのか

朝ラジオを聴いていたら、鈴木杏樹さんが、喫茶店とカフェの違いについて話していました。

それによると、喫茶店とカフェの「法律的」な違いは、営業許可の種類に基づくものなんだそうです。
「飲食店営業」の営業許可を得ていればカフェで、「喫茶店営業」の営業許可を得ていれば喫茶店というわけ。

で、実際どこが違うのかというと、「アルコールが出せること」というのが番組での解説で、それはその通りなのでしょうが、実際に営業許可を申請してみると、メニューに茶菓以外のものを予定していると「喫茶店営業」では許可が下りなかったりするので、喫茶店ではお食事は出せない、ということも加えていいと思います。

ただし、喫茶店営業の営業許可のお店がカフェを名乗ることも自由ですし、その逆もオッケーなので、このような法律上の区分が、喫茶店とカフェの違いを説明していることにはならない、という気もします。
ナポリタンなんか、むしろ喫茶店を名乗るお店のほうが美味しい、というか雰囲気があるというか。

まあだから、喫茶店とカフェの違いなんてのを考えることにたいして意味はない。
むしろ、やってるほうからみるとファーストフードのマナーしか知らないお客さんが増えてきたことのほうが、「異なり方」として重要(問題じゃなくて)な気がします。

合理的な注文システムで、最小限のコミュニケーションで用が済む。
利便性の高い場所にあって、利用しやすい。
メリットを考えれば、大資本の経営するファーストフード店が日常的に利用されるのは当然です。

経営する側だって、自分でやるよりフランチャイズに加わったほうがリスクが低い。
そんななかで、わざわざ自分の店を作る意味は、煎じ詰めて言えば、やはり自分らしく生きたいから、ということでしょう。

だから、問題は喫茶店なのかカフェなのか、ではなくて、お店一軒一軒の異なり方だと思うんですよね。

音楽とか什器とかからお店の人の嗜好が感じられる空間で、コーヒーなんていう、手で淹れれば、どうしようもなくその人の味になっちゃうものを提供する。
そこで過ごす時間を気に入った人にとっても、その選択じたいが自分らしさの一部になるような、そんなお店。

そういうものにワタシハナリタイ。


2017年4月4日火曜日

コーヒーとオーディオはちょっと似ている

この間、お客さまとコーヒーの話をしていてなるほどなー、と思ったのは、
「コーヒーの味ってさ、濃いのがいいとか、苦いとか酸っぱいとかじゃなくて、好きと苦手だよね」
という言葉でした。

栽培品種のセレクトで決まってくる遺伝子の混ざり具合。
抽出の時の温度や器具に起因するアロマの出具合。
はては提供される器が飲む時に生じさせる空気の混じり具合のような微妙な要素まで。

そういうものがからみあって、きっとそういう「好み」が出来上がっている。

こんなの個々の要素を言語化することも多分出来ないし、しても意味がないでしょう。
どうしたって、10人コーヒー屋がいれば、10種類のコーヒーが出来てしまうのです。
だからまあ、好みの店を見つけるしかないと思うんですよね。
それでも、たまに外で人の淹れてくれたコーヒーを飲む機会があると、あとで豆を調べて、品種による味の個性みたいなものを知ることが出来る。
その事自体はすごく楽しいですね。


そんなことを考えていてふと、コーヒーってオーディオに似てるなー、と思いました。
オーディオ装置から出てくる音にもやっぱり「好き」と「苦手」があるんですよね。

僕はアナログレコードを聴いたり、磨いたりするのが好きなんですが、これがけっこう装置によって音が違うんですよ。
特にターンテーブルに動力を伝達する形式に由来する音の違いが、コーヒーのような言語化しにくい「味」の違いのようなものになってるんじゃないか、と思う機会が多いです。

自分が使っているのはエントリークラスのダイレクトドライブ機で、モーターが直接ターンテーブルを回すんですが、はじめて自分のステレオを買ってもらった70年代の終わりから80年代にかけては、日本のメーカーから出ている普及品の多くがこの形式を採用していました。
そういうわけで慣れ親しんだこの形式の音が一番心地よいのかもしれません。

マニアな方の中には、ベルトドライブの方が音がいい、という人も、どうしてもアイドラードライブでなければ、という方もいらっしゃって、親切にも音を聴かせてくださったりします。
僕にはそれらの音が「揺れている」気がして「苦手」なんですが、機器で音が違うという体験自体は面白いわけです。
それにあの揺れている感じが音楽の実体感になっていて、だからそれが「好き」なんだという感覚もちょっとわかる気がするんですよね。



コーヒーに話を戻せば、商売でやっていることだから、職人が好き嫌いでコーヒーを焼くわけにはいかないと思います。
お客さまの嗜好にあったものをご用意できるのが一番だと思う。
それでも、こんな言葉にもならない微妙な感覚が嗜好を決めてしまう世界なら、味を磨き込むにはやはり自分の一番好きな味を追求するしかないでしょう。

この店の場合なら、それがハウスブレンドの「ジリオブレンド」ということになります。
開店した頃は、エチオピアとタンザニアの二種等量配合だったのが、後に重心の低さが欲しくてパプア・ニューギニアのシグリAAという豆にたどり着き、その後も焙煎度の調整を繰り返し、10年かけて磨いてきたブレンドです。
普段はストレートコーヒーを選ばれるお客さまも、贈り物にするときには「ジリオブレンド」を選んでいただくことが多いです。
ああ、わかってくださってるんだな、とそういう時、とても嬉しい気持ちになります。

2017年4月2日日曜日

カフェジリオ10周年、10年分の経験でやっと新しいブレンドをひとつ作りました。

先月3月21日を持ちまして、カフェジリオも10周年となりました。

10年もやっていれば、それなりに学び、習得した技術もあり、この機に集大成っぽい何か新しいことはできないだろうか、と思い、となればそれは新しいブレンドを作ることしかないだろうと思い当たりました。

珈琲通を自認する人たちはストレートコーヒーを選びがちですが、結局そこで問題になるのは農園と焙煎度だけ。
料理に譬えれば、素材の味と温度と切り方で決まる刺し身を楽しむ態度です。
それはもちろん粋でカッコいい価値観ですが、ソースや様々なスパイス、加熱法などのマリアージュで新しい味の世界を作っていく、広大な料理の世界に背を向けることでもあります。
長いコーヒーの歴史の中で、広がっていった産地の数だけ香味があり、焙煎度を掛けあわせた無限の可能性の中から、新しいコーヒーの味を作っていくブレンドは、(コーヒーだけに)煎じ詰めて言えば、コーヒーを生業にするものの目的そのものであるとも言えます。

というわけですから、ブレンドというのものは、「さて、何か新しいブレンドでも作るか」と言って作るようなものではないのです。
まず何か新しく実現したい味があって、そこに向けて豆を選び焙煎度を調整して作るのでなければ、ただ混ぜてあって、他のコーヒーと味が違うものができるだけ。
そういうものを「自分の作品」としてお店に出して対価をいただくことには強い抵抗があります。

そしてその実現したい味のヒントは、やはりここ10年で出会ったコーヒー豆にあるはずです。

真っ先に頭に浮かんだのは、マラウイのゲイシャ種。
深く焼いても下品にならずに、コクだけが出てくる素性の良さに感心して使っていましたが、最もバランスが良くなるはずのフルシティ(中深煎り)のちょっと手前では強い酸味が残ってしまうため、他のアフリカ豆のような奥行きのある香味が作りにくい豆でした。

焙煎度の吟味に迷っているうちにパナマのエスメラルダ農園が、ゲイシャ種でカップ・オブ・エクセレンスを獲ってしまい、世界中の注目を浴びた「ゲイシャ」という品種。
それまで知る人ぞ知る存在だったマラウイのものまで市場から払底して、一時入手困難になってしまいましたが、世の常でブームはいつか去り、ようやく安定的に入手できるようになっていました。
この機にゲイシャをブレンドで補正して奥行きのある味を作りたい。
これが今回のブレンド作りのメインコンセプトとなりました。

では、その奥行作りのパートナーをどうするか、についてはすぐに思い浮かんだ豆がグァテマラで、苦味と酸味が時間差で出てくるこの豆の独特の味が、このきっとこの補正にはぴったりだろうと。
そしてここ10年でもうひとつ感心した「エルサルバドル」という豆が、グァテマラの隣国であることもすぐに思い付いたところで、これはジリオブレンドというハウスブレンドの基本コンセプトが、エチオピアとタンザニアの質の異なる酸味を掛けあわせて奥行きを得るという考え方によく似ています。

こうして、マラウイ、グァテマラ、エルサルバドルの三種等量配合を試してみたところ、なにしろかなりコクが深いゲイシャの後味にだけ酸味の奥行きをつけるというアクロバットなわけで、やはり焙煎度の調整が難しい。
一週間ほどお客様にも感想をお聞きしながら育てていきました。

名前は「マイルドブレンド」としました。
「マイルド」はコーヒーの世界では「水洗式」を示す符牒です。
コロンビア、ケニア、タンザニアの水洗式ですっきりした酸味を感じさせるコーヒーが欧米の市場で珍重され、ニューヨークの食品相場市場で「コロンビア・マイルド」という独立した区分名を持っています。
しかし今やマイルドの名にふさわしいコロンビアコーヒーは非常に希少で、生産効率の高い替わりに品質に劣る新しい品種への植え替えが進んでいます。
かつて世界で賞賛されたキレのある味を、この新しいブレンドに担って欲しいとの思いで名前を付けました。


10年のご愛顧のご恩返しに精一杯お作りしたつもりです。
新しいブレンドをよろしくお願い致します。
また、次の10年も精一杯精進し、また何か新しい価値を作り出せるよう心をこめてコーヒーを淹れてまいります。
併せてよろしくお願い申し上げます。