この間、お客さまとコーヒーの話をしていてなるほどなー、と思ったのは、
「コーヒーの味ってさ、濃いのがいいとか、苦いとか酸っぱいとかじゃなくて、好きと苦手だよね」
という言葉でした。
栽培品種のセレクトで決まってくる遺伝子の混ざり具合。
抽出の時の温度や器具に起因するアロマの出具合。
はては提供される器が飲む時に生じさせる空気の混じり具合のような微妙な要素まで。
そういうものがからみあって、きっとそういう「好み」が出来上がっている。
こんなの個々の要素を言語化することも多分出来ないし、しても意味がないでしょう。
どうしたって、10人コーヒー屋がいれば、10種類のコーヒーが出来てしまうのです。
だからまあ、好みの店を見つけるしかないと思うんですよね。
それでも、たまに外で人の淹れてくれたコーヒーを飲む機会があると、あとで豆を調べて、品種による味の個性みたいなものを知ることが出来る。
その事自体はすごく楽しいですね。
そんなことを考えていてふと、コーヒーってオーディオに似てるなー、と思いました。
オーディオ装置から出てくる音にもやっぱり「好き」と「苦手」があるんですよね。
僕はアナログレコードを聴いたり、磨いたりするのが好きなんですが、これがけっこう装置によって音が違うんですよ。
特にターンテーブルに動力を伝達する形式に由来する音の違いが、コーヒーのような言語化しにくい「味」の違いのようなものになってるんじゃないか、と思う機会が多いです。
自分が使っているのはエントリークラスのダイレクトドライブ機で、モーターが直接ターンテーブルを回すんですが、はじめて自分のステレオを買ってもらった70年代の終わりから80年代にかけては、日本のメーカーから出ている普及品の多くがこの形式を採用していました。
そういうわけで慣れ親しんだこの形式の音が一番心地よいのかもしれません。
マニアな方の中には、ベルトドライブの方が音がいい、という人も、どうしてもアイドラードライブでなければ、という方もいらっしゃって、親切にも音を聴かせてくださったりします。
僕にはそれらの音が「揺れている」気がして「苦手」なんですが、機器で音が違うという体験自体は面白いわけです。
それにあの揺れている感じが音楽の実体感になっていて、だからそれが「好き」なんだという感覚もちょっとわかる気がするんですよね。
コーヒーに話を戻せば、商売でやっていることだから、職人が好き嫌いでコーヒーを焼くわけにはいかないと思います。
お客さまの嗜好にあったものをご用意できるのが一番だと思う。
それでも、こんな言葉にもならない微妙な感覚が嗜好を決めてしまう世界なら、味を磨き込むにはやはり自分の一番好きな味を追求するしかないでしょう。
この店の場合なら、それがハウスブレンドの「ジリオブレンド」ということになります。
開店した頃は、エチオピアとタンザニアの二種等量配合だったのが、後に重心の低さが欲しくてパプア・ニューギニアのシグリAAという豆にたどり着き、その後も焙煎度の調整を繰り返し、10年かけて磨いてきたブレンドです。
普段はストレートコーヒーを選ばれるお客さまも、贈り物にするときには「ジリオブレンド」を選んでいただくことが多いです。
ああ、わかってくださってるんだな、とそういう時、とても嬉しい気持ちになります。
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