先月3月21日を持ちまして、カフェジリオも10周年となりました。
10年もやっていれば、それなりに学び、習得した技術もあり、この機に集大成っぽい何か新しいことはできないだろうか、と思い、となればそれは新しいブレンドを作ることしかないだろうと思い当たりました。
珈琲通を自認する人たちはストレートコーヒーを選びがちですが、結局そこで問題になるのは農園と焙煎度だけ。
料理に譬えれば、素材の味と温度と切り方で決まる刺し身を楽しむ態度です。
それはもちろん粋でカッコいい価値観ですが、ソースや様々なスパイス、加熱法などのマリアージュで新しい味の世界を作っていく、広大な料理の世界に背を向けることでもあります。
長いコーヒーの歴史の中で、広がっていった産地の数だけ香味があり、焙煎度を掛けあわせた無限の可能性の中から、新しいコーヒーの味を作っていくブレンドは、(コーヒーだけに)煎じ詰めて言えば、コーヒーを生業にするものの目的そのものであるとも言えます。
というわけですから、ブレンドというのものは、「さて、何か新しいブレンドでも作るか」と言って作るようなものではないのです。
まず何か新しく実現したい味があって、そこに向けて豆を選び焙煎度を調整して作るのでなければ、ただ混ぜてあって、他のコーヒーと味が違うものができるだけ。
そういうものを「自分の作品」としてお店に出して対価をいただくことには強い抵抗があります。
そしてその実現したい味のヒントは、やはりここ10年で出会ったコーヒー豆にあるはずです。
真っ先に頭に浮かんだのは、マラウイのゲイシャ種。
深く焼いても下品にならずに、コクだけが出てくる素性の良さに感心して使っていましたが、最もバランスが良くなるはずのフルシティ(中深煎り)のちょっと手前では強い酸味が残ってしまうため、他のアフリカ豆のような奥行きのある香味が作りにくい豆でした。
焙煎度の吟味に迷っているうちにパナマのエスメラルダ農園が、ゲイシャ種でカップ・オブ・エクセレンスを獲ってしまい、世界中の注目を浴びた「ゲイシャ」という品種。
それまで知る人ぞ知る存在だったマラウイのものまで市場から払底して、一時入手困難になってしまいましたが、世の常でブームはいつか去り、ようやく安定的に入手できるようになっていました。
この機にゲイシャをブレンドで補正して奥行きのある味を作りたい。
これが今回のブレンド作りのメインコンセプトとなりました。
では、その奥行作りのパートナーをどうするか、についてはすぐに思い浮かんだ豆がグァテマラで、苦味と酸味が時間差で出てくるこの豆の独特の味が、このきっとこの補正にはぴったりだろうと。
そしてここ10年でもうひとつ感心した「エルサルバドル」という豆が、グァテマラの隣国であることもすぐに思い付いたところで、これはジリオブレンドというハウスブレンドの基本コンセプトが、エチオピアとタンザニアの質の異なる酸味を掛けあわせて奥行きを得るという考え方によく似ています。
こうして、マラウイ、グァテマラ、エルサルバドルの三種等量配合を試してみたところ、なにしろかなりコクが深いゲイシャの後味にだけ酸味の奥行きをつけるというアクロバットなわけで、やはり焙煎度の調整が難しい。
一週間ほどお客様にも感想をお聞きしながら育てていきました。
名前は「マイルドブレンド」としました。
「マイルド」はコーヒーの世界では「水洗式」を示す符牒です。
コロンビア、ケニア、タンザニアの水洗式ですっきりした酸味を感じさせるコーヒーが欧米の市場で珍重され、ニューヨークの食品相場市場で「コロンビア・マイルド」という独立した区分名を持っています。
しかし今やマイルドの名にふさわしいコロンビアコーヒーは非常に希少で、生産効率の高い替わりに品質に劣る新しい品種への植え替えが進んでいます。
かつて世界で賞賛されたキレのある味を、この新しいブレンドに担って欲しいとの思いで名前を付けました。
10年のご愛顧のご恩返しに精一杯お作りしたつもりです。
新しいブレンドをよろしくお願い致します。
また、次の10年も精一杯精進し、また何か新しい価値を作り出せるよう心をこめてコーヒーを淹れてまいります。
併せてよろしくお願い申し上げます。
0 件のコメント:
コメントを投稿