前回の【1】まずは「新鮮な」豆を手に入れるで、焙煎からの鮮度が重要であると述べた。
しかし、コーヒー豆にはたくさんの種類がある。
「どれを選べばいいか」とお店に問えば、「どんな味が好きですか」と逆に訊かれる。
「どんな味があるんですか」と問い直してみれば、おそらく「酸味系か苦味系か」というような答えが返ってくるだろう。
しかし、コーヒーの味というのはもう少し複雑なものなのである。
概ね、専門店で豆を買えば、それは「アラビカ種」の豆である。それがさまざまな国で栽培され、その土地の風味で異なった味になる。
同じカベルネ・ソーヴィニヨン種でもイタリアとフランス、またはチリやカリフォルニアでは、まったく違う味になるし、なんなら同じ国でも畑が違えば味は違うのと同じだ。
そこからさらに、ワイン醸造の工程があるのだから、世の中にあれほどの種類のワインがあってそれぞれに味が違うのも当然だ。
コーヒー豆も同様に、国や生産者で随分味が違う。
そしてコーヒーには「焙煎」という工程がある。
コーヒー豆を緑色の生の状態のまま粉砕して舐めてみれば酸っぱい味がする。
極端に深く焙煎してしまえば、どんな産地の豆も炭になり、同じ苦さになるだろう。
産地で培われた風味を最大限残しながらも、嫌な酸っぱさを感じないようにして、カフェインをはじめとする香味成分を最大限引き出す。
これが焙煎という作業の究極の目的だと、僕は思う。
だから僕にとっての究極のコーヒーは、酸っぱくも苦くもないコーヒーなのである。
さて、振り出しに戻ってしまった。
かくもコーヒーの味を言語化するのは難しい。だからもう少しだけお付き合いいただいて、僕が自分の店のコーヒー・ラインナップをどのように決めたのかをお話しさせていただこうと思う。
アラビカ種のコーヒー豆はエチオピアのアビシニア高原を起源とする。当地ではコーヒーの香りを「花束を抱えたような」と形容するそうだ。
赤道を挟んで南に位置するタンザニアもコーヒーの大産地だが、当地では「柑橘の香」と評される。
両者とも「酸味」寄りの表現だが、随分ニュアンスが違う。酸っぱくも苦くもない「完煎」の状態にして飲んでみると、上手く言葉にはできないが、確かに風味が違うのだ。
この違いを知ってもらうことが、コーヒーの味を体で理解する道標になるのではないか、という閃きに僕は興奮し、確信した。
その確信はいつか、これをブレンドすることで、もっとコーヒーそのものの理解に道を拓くものができるのでは、という思いに変わっていった。
結局酸味寄りの腰高な味に重心を持たせる意味で、落ち着きのある苦味寄りのアジアのコーヒーを探して、ブルーマウンテン(ジャマイカ)の苗を宣教師が移植したというパプア・ニューギニアのコーヒーにたどり着き、この3種の配合で、お店の看板ブレンド『ジリオブレンド』を作った。
もし良さそうなお店を見つけたら、「お店のブレンド」をください、と言ってみてほしい。きっと店主さんの思いが詰まったコーヒーが飲めると思うから。そしてその味を起点にしてお店とお話をしてみてほしい。
それがきっと自分好みのコーヒーを見つける第一歩になるはずです。
次回、いよいよ抽出に入っていきます!
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以下、蛇足的うんちく
お店で売っているのは概ね「アラビカ種」である、と書いたが、正しくは、アカネ科コーヒーノキ属アラビカコーヒーノキ種のこと。栽培品種としてはもうひとつ、アカネ科コーヒーノキ属ロブスタコーヒーノキ種というのがあって、この2種で99%を占める。
コーヒーの世界に分け入っていくと、ブルボンとかティピカとかゲイシャとか品種らしき名称に出会うことになるが、自然、あるいは人為的な交雑によって明らかに味の違う栽培品目(亜種)に付けられた名称で、どちらかというとこちらの方が、味を判断するのに便利な指標と言える。
本稿に書いたように、起源のコーヒーへのリスペクトが僕のコーヒー選びの基本的な姿勢なので、古い品種である、ティピカ、ブルボンを中心に豆を選択している。
エチオピアのゲシャ村で発見された古い突然変異種であるゲイシャ種も以前力を入れて取り扱っていたが、パナマの農園が大ヒットさせて以来めっきり入手しにくくなってしまった。
新しい品種にもいいものがある。東ティモールという新しい国で栽培している「ティモール・ハイブリッド」という交雑種は、洗練と荒々しさを兼ね備えた面白い味だった。こちらはフェア・トレードが乗り出してきて以来、価格が上がってしまい、マイクロロースターで扱うのが難しくなってしまった。
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