2013年11月2日土曜日

だから集客に「戦略」は持ち込まない

消費税が8%に上がると決まってからこっち、やはりケーキの売れ方が微妙に変わってきたように感じる。

我々のこの時期の主力商品のひとつ、なると金時のスイートポテトだが、パティシエの修行元だった三軒茶屋の名店Hisamoto'sのレシピ通り、良質な素材で丁寧につくったスイートポテトを、またわざわざ焼き芋のカタチに成形しなおして(下部には皮まで再現している!)それを適当に切り分けてグラムを測って、ひとつひとつに値付けをするという手間のかかる製法を採っている。

昨年までは、この商品の売れ筋は300円台後半だったが、今年は圧倒的に200円台がよく出る。

いくつか新しいケーキも出している。
こういう時は市場に受け入れられる価格が定まるまで、何度か価格改定をするものだが、最近は300円台で折り合ってくれる商品がなく、なかなか定着しない。

結果ショーケースの中は比較的安価なケーキで占められるようになった。

これで実際に消費税が上がったらいったいどういうことになるのだろう。
想像したくないがそうも言っていられない。
改めてきちんとした価格ポリシー、ひいては経営ポリシーを再構築する必要があるだろう。

消費税導入に合わせて、価格に税がきちんと転嫁されているか、政府で調査をするんだそうだが、そんなことはまるで無意味だ。
消費税を上げたらその分、みんなの給料が上がるというならそれでもいいだろう。
給料は、もちろんそういうロジックでは決まらない。
だからもちろん買い物だって、そういうロジックでは決まらないのだ。

価格は市場が決める。
使えるお金が手元に無かったら、そこにどんな良い商品があっても購入されることはない。その商品は市場から退場し、多少品質を犠牲にした安価な商品が居座ることになり、全体として商品の価格は長期にわたって低下し続けていく。
これが今、日本に起こっている「デフレ」と呼ばれる経済現象だ、と前日銀総裁の白川さんが困ったような表情で言っていた。
だから解決策は金利がどうだとか、お札を刷るとかそういうことじゃなくて、少子化とか海外の安い労働力に負けない生産性を獲得することなんだよ、と。

こんなちっぽけな、でも自分にとってはかけがえないの人生の終着点として設計した個人事業を営んでいる僕としては、この白川さんのお話に強い共感を覚えた。
だって、みんなだって対症療法より体質改善の方がいいと思うでしょ?
でも結局、対症療法は断行され、問題は先送り。
そして薬(偽薬だろうけど)が効いている今のうちにと、消費税は上げられた。
体質は変わってないんだから、そりゃ財布の紐を締めていくしかないよね。


もう20年近く続いている不景気のせいで、いろんなことが狂ってきてる。
レストランのメニュー偽装なんて、普通そんなに長い間続けられるもんじゃない。
芝エビじゃない小さなエビを使ったメニューを芝エビと表記したことが問題になってるって、芝エビのあの独特の透明な光具合や、口に入れた途端に広がるあのちょっと青い香りは他のエビでは絶対出せないわけで、お客さんが食べても食べてもそれに気づかなかったから、長い間その偽装が成立してた。
もちろん嘘を書いてたほうが悪いんだけど、結局経済学者の言うところの「市場原理」ってのは市場に見る目があっての話だってことだ。
伊勢海老とロブスターの見分けがつかない<市場>に原理なんぞあるわけがない。

夜、昔の仲間と酒を飲んだあと、酔い覚ましに入った喫茶店でブルーマウンテンを頼んだ。透明さが身上のブルマンなのに、出てきた珈琲はひどく濁った味がした。
きっと何かの豆を混ぜてあるんだと思う。
普通の喫茶店で使っている生豆は1kg 600~1,000円くらいのものが多いけど、ブルマンは6,000円近いから、無理もないなとは思うけど。

騙し合いが始まると、自分の舌で店を判別できない人は口コミに頼るしかない。
お店は嘘ついてるかもしれないから。
そうして、食べログなんてものに皆が頼るようになった。

僕としてはそういう騙し合いのゲームに参加するつもりはない。
だから集客に戦略は持ち込まない。
昔から飲食店の集客は一期一会と決まっている。
だからこそ旨いものを作る。
そこに嘘とか、税金の心配とか、そういう無粋なものを差し挟んでほしくないんだ。

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