2007年3月20日に、札幌の宮の森という住宅地の路地にこのカフェジリオを開店してちょうど7年が経ちました。
本当にあっという間の7年間でした。
自分の中に喫茶店という将来像が浮かんだのは、やはり喫茶店でのことでした。
高校生の時、剣道部の練習帰りに「鉄舟」という喫茶店によく立ち寄っていました。
僕はタバコもやらなかったし、アーケードゲーム(当時はもうインベーダーが終わってギャラガとかが流行っていました)も人のプレイを見ているだけ。
友人たちのちょっとした「武勇伝」を聞いて笑っているだけでした。
そんな僕に苛立っていたのかもしれないな。
お店のお姉さんが、ある日たまたまカウンターに座った僕に「あんたタバコも吸わないの。やー、なんか乳臭いねー」と言ったのです。
言い返す言葉もなく、曖昧に笑った僕の心の中では、「大人になる場所」としての喫茶店の存在が強く刻み込まれていきました。
そしてその強い印象は、「大人になった自分は、一体何をする人になるのだろう」という、誰でもその年頃に考えるテーマに、自然に結びついていき、しかし、何も知らない子どもだった僕は、「乳臭い」自分から脱却したいという気持ちを、ネクタイ絞めて、七三に分けた真面目サラリーマンみたいなものにはならないぞ、というまるで見当違いのイメージに結びつけてしまったのです。
その後、大学に進学した僕は、フォークソング研究会というサークルに入って音楽三昧の日々を過ごすのですが、音楽で生きていくってのもいいなあ、なんてこれまた甘い幻想を抱く世間知らずの僕の前に、当時サークルに在籍しておられた松崎真人さんという、在学中にプロデビューしたシンガーソングライターが現れるのです。
サークルのオーディションや演奏会で時折松崎さんの歌を聴く機会があるのですが、なんかもう全身から放ってるものが全然違うんですね。
練習してなんとかなるような、そういう部分じゃないところに大きな違いがあるのがどうしようもなく感じ取れてしまうんです。
少なくとも自分の中にそういうものはない。
ああ、音楽で生きていくってこういうことなのか、と自分自身の甘さのようなものをやっと10代の終わりにして実感しました。
そのサークルの部長を僕は務めたのですが、先代の部長が就職していたリクルートという会社を僕も選んで社会人になりました。
入社前に北海道支社でアルバイトをさせてもらったのですが、その時広告制作セクションのチーフが、ある広告を見せてくれました。
札幌コンピュータ専門学校(現札幌情報未来専門学校)の募集広告で、大きな筆文字で「とりあえずコンピュータ、なら大学へ行ってください」(広告は手元になく、うろ覚えです。すみません)という挑発的なキャッチが書かれていました。
僕はその広告を見て、予備校時代に知り合った札幌コンピュータ専門学校の友だちのことを思い出しました。親に専門学校進学を反対されて学費を出してもらえなかったので、新聞配達などのバイトをしながら学校に通っていた彼は、疲労困憊に見えました。
どうしてそこまでして、と聞いた僕に彼は「いや、コンピュータで生きていくことにもう決めたからしかたないんだ」と言ったのです。
その時感じた、自分の進む道を決めた者の覚悟のようなものが、広告からも感じ取れました。(この仕事は面白そうだぞ)と思い、学校広報の部署への配属を希望しました。
4月に入社して、幸いにも希望通りの部署に配属されました。
新人研修が終わって本配属になった新宿のオフィスに行くと、同期入社で同じ北海道出身の女の子が同じ課の配属だとわかりました。
何気なく、「なんでリクルート選んだの」と聞くと、子供の頃からお菓子職人になりたかったけど、家が農家で学費を出してもらえなかったから、お給料いい会社に入って資金を作って製菓学校行こうと思ったの、と言う。
ここにもまた自分の道を決めて進んでいる人がいた、と思いました。
すでにお察しのことと思いますが、彼女が現在のカフェジリオのパティシエであり、僕の家内になる人です。
僕は彼女と話しているうち、高校生の時に抱いた「喫茶店」という未来を思い出し、そここそが自分が何者かになる場所とイメージしていたことに思い至って、僕自身も何者かにならなければ、と強く思うようになりました。
そして、彼女は予定通り4年でその会社を辞め、学校に行き、お店に入り、ドイツでの修行も経て、開業の準備を進めました。
僕はその会社で18年、いろんな経験を積ませてもらいながら資金を用意しました。
そして僕らは7年前に、彼女のはっきりした直進性をもった夢に、僕の未熟な思いから生まれた夢ともいえないイメージを仮託して、カフェジリオというカタチを作ったのです。
おかげさまで、想像もしていなかったほど順調で楽しい7年間でした。感謝の気持ちはとても言葉にはなりませんが、美味しいケーキとコーヒーを作る続けることが何よりのご恩返しと心得て、今日から8年目の営業に入ります。
変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。
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