2014年3月1日土曜日

情熱の冷却効果

3月が来てしまった。

来月から消費税が上がる。

価格改定の準備をしなくてはならない。

値札の書き換えは当たり前だが、こんな小さなお店でも経営を管理して、税務署への正しい申告を行うためのシステムを使っていて、ここに組み込まれている消費税率も書き換えなければならない。
レジの中にも消費税を自動計算する機構が組み込まれており、こちらも直さなければならない。
そうだ、電卓も。

まあ、やれば終わる話だが、もう一回あるかと思うとげんなりする。


でも本当に困るのは、原材料が次々に値上げを始めたことだ。

消費税が上がれば、当然消費は少なくなる。
財布の大きさは一緒だからね。
その絞られた分を、少しでも取り戻すために消費税値上げ前に、本体価格も上げておくのが問屋というもののやり方だ。
小売店の利益をクッションに使うわけだ。

しかもこの業界では、我々のような小さな店には一般に価格改定の通告はない。
最初は、こんなやり方がよくまかり通るものだと思って、問屋さんとお話をしてみたこともあるのだが、話したからといって、事情がわかるだけで、別に価格が変わるわけではない。
もう今は、そんな無駄なことはやめてしまった。

大きな企業とその下請けとなると事情はまったく変わってくる。
今回の増税時に、増税分は価格から値引きせよと通告している企業が、経産省実施の無作為調査で268社も出てきて、立ち入り調査に入ったというニュースも記憶に新しい。


そして最後が小売店だ。
ここでは買い控えの影響がとても直裁的なスタイルで襲ってくる。
価格に敏感なこの時期に、消費者は慣れた店での買い物を一時精査するようになる。
この時期に価格を据え置ける体力のある店が新しい顧客を獲得する。

もちろん出来る限りそのような精査に耐えうる関係作りをしてきたつもりだが、すべてのお客様と価格競争を無効にできるほどの濃密な関係を築けているわけではない。
下り坂にあるこの国で生きていく限り避けることの出来ないイベントなのかもしれないが、なんともやるせない。


消費税のことを考えるといつも、虚しいなあ、と思う。

誠心誠意を尽くして顧客との関係を作っていくほか生きる道のない小さな店ほど、このような荒波に揉まれてしまう。
なぜなら、消費税はその名称から消費者自身が払っているという名目になっているがゆえに、経済の最も根底にある消費のマインドを冷やしてしまうからだ。


冷やしてしまうのは、それだけではない。

消費税を国に納めているのは事業者である。
増税の時、消費者に見えないところで、予めモノの値段は上げられている。
それを小売店が飲み込んで、価格を出来る限りのところで決定して、販売する。
消費者は結局、税を含んで上がってしまった原価を反映した新しい価格でものを買っているということだ。

つまり、ワタシたちの国は、消費税という税金を新しく取りますよ、または税率を上げますよ、と宣言することで、まず実体の無い「値上げ」を世の中に創りだすのである。
そして、このステップで生じた値上げ分を税金として収税するために事業者に課税すると、結局事業者がその収益の中から「利益額にかかる所得税」と、「売上額にかかる消費税」を払っていることになり、利益は売上の一部だからこれは二重課税になってしまう。
それを消費者が負担者で納税者が事業者なのだというアクロバティックな解釈を強弁することで、事業者の節税手段を封じ、二重課税の軛を逃れ、新しい安定した税収を得る。
フランスで考案されたこの近代税は、まさに「悪魔の税制」なのだ。

納税そのものは義務だと思う。
だが、どうせ義務ならば、頑張って働いて、お客様がその価値を認めてくださって、収益が増えて、その結果税収が増えるという方がいいではないか。
税の存在が値上げ分を創りだすなんて仕組みのどこに仕事の情熱を感じればいいんだい。


もし今でもサラリーマンをやっていたら、こんな生々しい国家の詐欺も気にならなかったかもしれない。
とは言え、このスタイルでしか本当にいいものを作り続けていくことが出来ない以上、自分を偽って生きていくことも今更できない。

剥き出しの自分のままで、今日を昨日と同じように生きるのは、実はとても難しいことだ。
家族だけで経営しているような、こんなちっぽけな店にとっては、どんな小さな風が吹いてもまっすぐ立っていることは難しい。
それでも自分らしくありたいと思う「情熱」がなんとか僕らを支えている。

5%が8%に変わることが引き起こす突風には、消費マインドを冷やすだけではなく、それを数字だけで表現しようとする人には想像のつかないほど深刻な「情熱の冷却効果」がある。
立て続けに二回吹くことが予め決まっている突風に、足を突っ張って、なんとか倒れないようにする。
この3月に僕らがしなくてはいけない準備とは、そういう種類のものなのである。


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